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番外編2 カーテンコール(side 絵梨)

コラボメニューを諦めたので、会場には無事開演時間前に着くことが出来た。



一幕の途中で翔君とふと目が合った気がしたが休憩になった途端、隣の席の女の子が


「私、アルベールと目が合ったんだけどー!!!」


って騒いでいたので、あぁ、私の気のせい(ファンあるある)かと速攻で理解した。







後半も翔君のお芝居は素晴らしく、万感の思いでアンコールの拍手をしていた時だった。

黒いスーツを来たスタッフと思しきお兄さんがスッとこちらによって来ているのが視界の端に見えた。


誰か何かあったのかなーと頭の隅で思いつつ、ステージ上の翔君の一挙手一投足を見逃すまいとしていると、


「お伝えする事がございますのでこちらにお越しください」


スタッフのお兄さんからそう突然耳打ちされホールから連れ出されてしまった。



私、何かマナー違反をしてしまったのだろうか??!


チケットは正規のものだし、録音録画もしていない。

マスクも付けていたし、一人で来ていたので観劇中もおしゃべり何てしていない。



『誤解です! 本当に私何も悪い事なんてしてないんです!!!』


関係者用の扉を開けられ中に通された後、振り向いたスタッフのお兄さんに半泣きになりながらそう言おうとすれば、


「お怪我をされたとキャストからうかがっております」


そう言われ、フカフカしたソファー席に案内された。


劇場の医療班の方が私の足のテーピングに気づき、痛々しく思って他のお客さんがはけるまでここで休めるよう取り計らってくださったのだろうか?



よく分からないが言われるままにフワフワのソファーに座って茫然としていると、突然、カーテンコールの衣装のままの翔君が走って来た。



「受診終わったら連絡くれる約束でしたよね。一人で帰るつもりだったんでしょう。ダメですよ、送りますから」


「え?! あ? いや、あの????」


サプライズに思わず日本語がままならなくなる。


「軽い捻挫なので本当にもう大丈夫です。そんな事より突き飛ばしてしまった翔さんに怪我がなくてよかったです。あの、なので私はこれで……」


しどろもどろではあったが、なんとか一人で帰ると言えたので立ち上がろうとした時だった


「ちょっとまってて」


そう言って翔君は人の話も聞かずまたどこかに走って行ってしまった。



「……どうしよう」


共演者の方のSNSでのツッコミでおなじみの、翔君のマイペースっぷりを生で観れて嬉しかったので突然の放置プレイは一向に構わないのだけれど……。

翔君にこれ以上迷惑をかけるのは流石にこの舞台の沼の住人として憚られる。



……。

よし、逃げよう!



そう思って立ち上がった時だった。


「お待たせしました」


ダッシュで戻って来た翔くんが、親切にも私のカバンを持って歩き出してしまったので彼について行かざるを得なくなってしまった。





「あ! 急いだからシャワーも浴びてなくて……汗臭かったらホントすみません」


エンジンをかけ、アクセルを踏んで少ししたところで、翔君がハッとしてそんな事を言いながら少しだけ窓を開けた。


「全然汗の匂いなんてしないです! 仮にしたとしても、それは寧ろそれはご…………じゃなくて!! それよりかえってご迷惑おかけしてしまって。ホントもう大丈夫なので……」


「どちらです?」


また翔君がマイペースに私の言葉を遮った。


まぁ、思わず血迷った発言を聞かないでいてくれたならありがたい。

困った末劇場最寄りの駅名を伝えると


「家まで送りますよ。どこです?」


そう言われてしまった。



込み合う道路で、行き先が定まらず車が減速していく。

後ろから慣らされたクラクションに観念して住所を言えば


「昔、近くに住んでました。そこだと電車も混むでしょ? その足で満員電車に乗るつもりだったんですか???」


そんな風に呆れられてしまった。



少しの沈黙の後、翔君が前を向いたままステレオを操作した。

ときどき手元に向けられる流し目と、手探りで伸ばされるその綺麗な手に心拍が上がる。



そうだ。

ドキドキ繋がりで思い出した。


「……今日のカーテンコールも、すっごく素敵でした」


翔君はカーテンコールの時、表情は翔君本人に戻るのだが、そこでのふるまいはアルベールのままで、ヒロインや仲間たちといつも楽しそうにじゃれ合って見せてくれる。


アルベールは途中苦しい選択を迫られる役柄でもあるので、私はその楽し気なカーテンコールのアルベールの姿を見てようやくホッとして劇場を後にすることが出来るのだ。


「途中までしかみれませんでしたけどね」


翔君からしてみれば何気ない事なのかもしれないけれど、それに救われて明日からの仕事もまた頑張れる人間がいる事をおこがましくも伝えたくなってそう言えば


「今日の三度目のカーテンコール、佐藤さんがちゃんとあなたを連れ出したのにホッとして、そこで気が抜けて……思わずヒーローとヒロインの間に割り込んで立ってしまいました。めっちゃ恥ずかしかった」


そんな思いがけない事を翔君が言い出した。



なにおぅ?!



思わずご本人を前にSNSを開けば、その翔君のうっかりレポが上がっていた。


なんと翔君、はっと気が付いた時思わず赤面してしまい、両サイドのヒーローとヒロインから『ドンマイ!』って頭ヨシヨシされたらしい!



「何ソレ?!! 私もそれ超見たかったですけど!!?」


「みんな笑って許してくれましたけど、超恥ずかしかったのでもう決してしないよう気を付けます!」


思わずオタクな部分の自分が勝って本人を前に悶絶すれば、翔君が少し意地悪な顔をして笑った。

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