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私はまだ推してない  作者: tea


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番外編1 危うく異世界転生するところだった(side 絵梨)

ここから番外編です。

異世界転生したエリーとアルベールの世界とはパラレルワールド、ifの世界だと思っていただければ……

舞台の開演前にコラボメニューを食べようと、夜の公演の三時間以上前に会場近くを歩いている時だった。


信号待ちをしながらスマホの画面を見ていると、ふと目の前に立っている人の背格好に見覚えがあり目を上げれば、そこには私がこの後見に行く予定の舞台に出ている俳優の翔君が立っていた。


翔君は黒いジャージのズボンの上に白いTシャツを着て、キャップを目深に被り耳にはイヤホンをしている。

きっとリハーサル前に軽くジョギングをしてきて劇場に戻る所なのだろう。



『今日この後観に行きます! 頑張ってください!!』


青信号になり歩き出した翔君の背に向かい、心の中でそんな事を思いながら合掌した時だった。

トラックが猛スピードで翔君の方に迫っているのが見えた。



火事場のバカ力というヤツだろうか。


「危ない!」


そう叫んで思わず翔君を突き飛ばすようにして庇えば、トラックが猛スピードで私のスカートの裾と長い髪の先をかすめて行った。



腰が抜けてペタンとその場に座り込む。


「大丈夫ですか?!」


それに気づいた翔君が、そう言いながら真っ青な顔をしてこちらをのぞき込んできた。


「あ。だ、大丈夫です。……! 寧ろ思い切り突き飛ばしてしまって!! 翔さんこそ大丈夫でしたか?!!」


震える声でそう尋ねれば、翔君がウンウンと首を大きく縦に振ってくれたので、ようやく詰めていた息を吐くことが出来た。



いつまでも横断歩道の真ん中で座り込んでいる訳にもいかず立ち上がろうとしたのだが。

残念な事に腰が抜けて立ち上がれなかった。


そんな私の様子に気づいて、好青年の翔君は手を差し伸べてくれる。


しかし、こんなことで煩わせるのも申し訳ないと思い、生まれたての小鹿の様に足をプルプル震わせながらも自力で立ち上がろうとすれば、そんな私を見かねたのか時間が惜しいと思ったのか、結局翔君が私の腕を掴んで優しく助け起こしてくれた。



立ち上がりホッとした次の瞬間、右足首に痛みが走った。


ハイヒールでダッシュして変な力のかけ方をしたのだ。

恐らく捻挫でもしたのだろう。


流石に折れてないといいのだけれど……


そんな事を考える私の顔を見て


「すぐ病院に行きましょう」


翔君がすぐそばを走っていたタクシーを止めた。



「えっ?! あの、大丈夫ですから!!」


一緒にタクシーに乗り込んだ後、病院までついて来てくれようとする翔君を必死に止める。


「リハーサル、遅刻しちゃいますよ?!」



「さっき名前を呼ばれた時にも驚いたんですが……僕の事ご存知なんですね」


はっ!

もしかしてストーカーだと気持ち悪がらせてしまっただろうか。

違うんです!!


何と弁明しようかと焦れば、


「Eriさん……ですよね?」


突然、翔君が私の事をSNSのハンドルネームで呼んだ。



『何故バレた???!』


驚愕のあまり目と口をあんぐり開けば、翔君が私の鞄についているクマのぬいぐるみを指さした。

そのクマにはアルベールの手作り衣装を着せていて、私のSNSのアイコンにもなっている。


「コメント、読んでます。いつも細かい所褒めてもらって、その……。すごく嬉しいです。いつもありがとうございます。」



『神対応……』


そんな事を思いながら翔君の顔をぽけーっと見続けること、数十秒。

私はハッとして劇場の裏口でタクシーを止めた。


「ホント、後は一人で大丈夫ですから! 早くリハーサル行ってください!!」



時計を突き付ける様に見せながら必死になってそう言えば、翔君は私の顔と時計を交互に見ながら散々悩んだ末、


「夜の公演見にいらしたんですよね? じゃあ、帰り送るので受診が済んだら必ず連絡ください! 必ずですよ?!」


そう言って自分の手帳のページを破って電話番号を書きつけると私の手に渡し、後ろ髪惹かれるようにタクシーを降り劇場に向かって行った。





……漫画みたい。


最寄りの整形外科で順番待ちをしながら、ぼんやり翔君の携帯の番号が書かれた紙を眺めそんな事を思った。


数字の『8』の書き方が独特で、翔君本人が書いたものに間違いないのだなーと頭では分かるのだけれど。

現実感が無さすぎる。



『どうせなら図々しすぎてかけられない番号よりも、サインお願いしたらよかったかな』


それか、折り鶴という名目の不思議生物でも良かったな。



そんな事をぼんやり考える私にお医者さんは


「軽い捻挫ですね」


そう言って、湿布を貼った上からテーピングをしてくれた。

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