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私はまだ推してない  作者: tea@コミカライズ 12/26発売 お飾り妻アンソロジー


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番外編5 テーマパーク(side 絵梨)

次の翔君と私のお休みが重なった日、翔君の希望で二人で出かけることになった。


どこに行くべきか、どこなら人になるべく会わないかそんな事に私が頭を悩ませていたら、翔君が驚いたことにテーマパークに行こうと言い出した。


人は意外とキャラクターばかりに目が言って、他人の事を意外と見ていないのだという。



「俺は別にアイドルじゃないからね、別に人に見られたって困らないよ。それにそもそも俺の事を知っていて、メイクも衣装も着てない状態で俺だって気づくヤツなんて友達くらいだ」


……確かに。

ビッグサイズのTシャツにキャップを被った翔君は、騎士服をビシッと纏い、髪をオールバックに撫でつけた舞台上のアルベールと同一人物には見えない。



でもそれだけに、舞台上ではアルベールになり切れちゃう翔君は役者さんとして凄い人なんだと改めて知る。


そんな事を考えて、また勝手に彼を遠くに感じそうになった時だった。


「紹介されて出て行くとガッカリされるくらいだし……」


翔君が大げさに肩を落として見せた。

それがなんだか可愛くて思わず吹き出せば、『面白くなりたい』翔君は自虐ネタがウケたと思ったのだろうか、また楽しそうにニッと笑って見せた。





「大丈夫だから」


そうは言われても……。

その言葉を鵜呑みにしていいのか分からず、翔君から遅れるように少し離れて歩いた。


翔君は一度、大きく肩を竦めて見せたが何も言わなかった。


その代わり、わざと離れている意味がなくなるくらいに頻繁に振り返り、何度も楽し気に笑いながら話しかけてくれたのだった。





夕ご飯に、翔君はカレーを注文していた。


「へー! 久しぶりに来たんだけど、テーマパークのメニューは本格的になったんだね!!」


サーブされたトレーを見て翔君は興奮気味にそう言った。



まぁ、本格的と言えばそうだけど?



何だろう??

インドカレー初めてなんだろうか?


そう思った時、ふと翔君のトレーにスプーンが無い事に気づいた。



「すみません」


そう店員さんに声をかけ、スプーンをお願いすれば


「大変失礼しました」


そう言って店員さんがスプーンを持って来てくれる。



突如ポカンとしてしまった翔君にどうしたのかと尋ねると


「本格派の店で、……素手で食べるんだと思った」


翔君のそんなつぶやきが聞こえたのだろう。

店員さんが、我慢できず慌てて後ろを向き吹きだすのを必死に耐え肩を震わせていた。


なんでこの人、短冊に『面白くなりたい』なんて書いたのだろう。



「面白いのはもう十分なんじゃない???」


閉演前の花火が始まる前、人込みに流されはぐれそうになった私にその手を伸べてくれた翔君にそんな事を言えば、


「え? そう???」


はぐれないよう私の手をギュッと握ってくれた翔君は心底不思議そうに、でも酷く嬉しそうにまた眩しく笑った。

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