地縛霊
お節介な人、気にしいな人、そしてとても優しい人。虫も殺せないほど臆病なその人のことが私は嫌いだ。誰かのためにいつだって真っ先に自らの身を削っていく姿は死に場所を探すようで、何もできずにただそれを見ているだけの自分のことが嫌になる。
一日くらい忘れても、誰も怒ったりしないのに、彼は毎朝必ず私に声をかけてくれる。私のことを覚えていてくれることは嬉しい。でも、早く忘れて欲しい。どこまでも底なしに優しくて、馬鹿な人。
彼は夜になると必ず私に向かって話しかけた。今日は桜の花が綺麗だったとか、そんな他愛無い話の後に、必ずこう続ける。
「どんな一日も君がいないと空っぽだ。」そんなことを言われたって私にだってどうしようもないのに、寂しそうな表情でこちらを見つめる。
「私はここにいるわ。」聞こえるはずのない言葉を吐き出し、触れることの叶わない両腕で彼を抱きしめる。
一人になんてしたくなかった。ずっと隣にいたかった。そんな思いが私をここに縛りつけた。けれどそれは地獄に落ちるよりも苦しいものだった。無力な私は孤独な彼を眺めることしかできない。
「私を忘れて。」届くことのない言葉を放った。それを掻き消したのは彼の声だった。
「いつまでも君を愛してる。」
私たちは交わらない。