古文書館にて
登場人物
リシュ・レミルトン 駆け出し盗賊
リティア・ウィンフィールド 先輩
シンシア・ルフィン パワー系プリースト
アリッサ・ハーメイ 放し飼いサモナー かぴばら
ララ・ヘルミナ お子様メイジ
ジーン・トアロ 盾なしウォリアー
マリア・ヴェルナーデ 螺旋階段
ジェフリー マシュマロボディ
ルーファス 大剣メイジ
ティアナ 意識高い系のプリースト
ウォーレン・ジーク シーフのマスター
街の中にある施設なのに、余りその存在を気にもしていなかったのは
自分は関わる事がないだろうと思っていたからで、もし金採掘に関係する
本があるのなら訪れていただろう。どっちかというと魔法職の人が利用して
いる印象で、建築や造船、歴史に関するのもあると父から聞いていた。
「へー、見た事ある建物だけどココだっんだねー。ちょっと待ってて
これ捨ててくるから」
「ゴミ箱があったと思うが、飲み物用だけあるんだよな。ココ」
「え?そうなの、じゃあ食べ物は禁止なんだね。どうしてだろう?」
歩きながら街中を通って向かう時に、アリッサが小腹が空いたので買って
行こうよーと言い出し、俺、ジーン、シンシアはあの蜘蛛との事もあってと
ても食べれる気分じゃなかったので遠慮したのだが、アリッサは一人で買い
物をして戻って来ると、歩きながら食べていた。鋼のメンタルかよっ
「入ってみると分かるさ。モノ音1つでも他の利用者にとっては集中を
乱される行為で、他人に対する配慮を理解出来ないと視線が痛い」
「そうなんだ。まあ、建物自体が大聖堂の様な感じだよね。上の階も本?」
「外見は3階建てバロック建築の造りなんですけど中は凄いですよ。古い
ゴシック様式でありながらも錬金術を施された文字や飾りが芸術の域で」
かるーい気持ちで聞いた俺が馬鹿だったわ。ジーンは乾いた笑い話っぽく
言ってるけど目が明後日の方を見てるぞ。これは自分が経験したからのハズ。
建物自体がかなりの大きさなので全部が本で埋まっているのか2人に尋ね
たら、シンシア姉さんが建築様式やら語りだしたが、俺にはサッパリだった。
「そ、そうなんだ。シンシアはココを良く利用してるの?俺は来るのも
初めてで、色んな造船に関する本があるって親から聞いてはいたけど」
「たまにですよ。こういった時代を感じさせるアーチの造りや重厚な壁体を
見て回るのが好きですね。造船ってリシュさんは船に興味があるのですか?」
「うん。まあ、大きな客船クラスから漁船まで、造りが独特で面白くてさ。
あっ、アリッサが戻って来たね」
感性は人それぞれ、シンシア姉さんはこういった古めかしくも壮麗な雰囲気
のある造形物が好きなのだろう。俺には、あーそういうモノ何だ、という気持
ちになるだけで特別な感情はないかなー。造船に関する事ならならワケあって
探してるモノがあるが、めちゃくちゃ昔にあったらしいという曖昧な噂しか聞
いた事がない。砂金の採取だけを目的とした浚渫 「しゅんせつ」船。
「おまたせーっ、さあ入ろう。リティアちゃんも居るといいねー」
「おかえり。そうだなあ、先輩はソロで活動してる可能性あるし、
居てくれたらいいんだけど」
「そう考えると、シーフは単独で乗り込む勇気というか度胸が凄いな」
シンシア姉さんと話しながらそんな事を考えていると戻って来るアリッサの
姿が見えて、俺たちに入ろうと声を掛けている。先輩の事を気にしている様子
でララと一緒なら良いのだけど、と。この建物の大きさなら1階と3階で別々
の所に居て、お互いが古文書館で顔を合わせていないのでは?それなら先輩の
行先が気になるけど、ジーンの言う様に度胸というか肝は座っていると思う。
「ロマンが全てを超えるって言ってたよ。恐怖さえも楽しくなるんだって、
まだ俺はその感覚は分からないけど、好奇心が恐れを超えるんだろうね」
「あー、いるよねー。お化け屋敷を楽しんじゃう子。リティアちゃんの場合
は、逆に驚かす方が性に合ってるって言いそうだよ」
「う、うーん。逆境とかに陥ってもそれをクリアした後にある達成感を求め
ているんじゃないか。ソロのトレハンだと根気もいるだろう」
「そっかー、そう簡単に見つかるとか無さそうだもんね。根気かぁ」
お宝というロマンを求めるとスリルを伴う。目的のブツが決まっているの
なら尚更、ゲットする為にあらゆる手段を模索する為に、調べないといけない。
備えあれば憂いなしというし。先輩がどんなアイテムを探しているのか興味
も沸くけど、アリッサの言う様に先輩ならむしろステルスをフル活用出来るや
んけ!と喜びそう。達成感じゃないかと真面目に考察してるジーンの配慮に涙。
◇
ー古文書館 1階ー
窓側にある広めのテーブルでララとリティアはそれぞれ別々の本を読んで
いた。ララは手にしている1冊のみだが、リティアの周りにはかなりの量の
本が乱雑に置かれていて、あれを見てはコレを見てというのを繰り返している。
「あーーーっ。やっぱり分からへん!先人達でも伝えるのに躊躇しとったんか
のー。一子相伝的な扱いやったら、自分で試すしかないとか気が遠くなるで」
「・・・その資料や古文から、貴女の知りたいのはアンエクスコンボかしら?」
「なっ、何で知っとるんや?コレ見つけるのは相当な労力が必要やで。
中にはガセ情報を売って、金を稼いでるのもおるって聞くけどの」
※アンエクスコンボ 別々の職業から継承したスキルを組み合わせて
爆発的な火力を生み出す事が出来る。
椅子の背もたれに体重をかけて、後ろに伸びをしながら手にしていた本を
机にポンッと置いてリティアが独り言の様に喋り出すと、読んでいた古文書
を閉じてその様子を見ていたララがリティアに対して思いがけない言葉を口
にした。アンエクスコンボ、それを聞いたリティアはララの方へ聞き返す様
に身を乗り出して、半ば疑いの眼差しを向けていた。
「ち、違うわよ。勘違いしないでくれる。扱ってるのを見た事があるだけよ。
研究してる物好きもいるけど、大抵失敗してるわね」
「そ、そうなんか。そういえばメイジのマスターやってんな。ある程度の
知識があっても不思議じゃないの。いや、ゴメン。うちの早とちりや」
リティアの顔付きと視線からアンエクスの事を知っているのがおかしく、
更に「ガセ」というのと「金儲け」のキーワードを察して、すぐに否定する
ララ。話しを聞いていたリティアは「研究」という言葉から、アルテミシア
からララがマスターであったと言っていたのを思い出して、すぐに謝った。
「ええ。まあ、でもこの見た目じゃ。常識外れの事を知っているという
ギャップから勘違いしてしまうわね」
「その落ち着き様が、ソレと相まって雰囲気も異様なんやけどな」
「・・・(無言のララ」
以前メイジギルドのマスターだったという経緯から、今の自分の姿が幼く、
その事も関係して、リティアが怪訝な顔をしたと思っていたララだったが、
リティアは容姿に反した落ち着き様と、ララの着ているモノを指している。
◇
ーその頃のリシュ達ー
古文書館に2人がいるかも知れないと思った俺達は、古めかしくも壮麗な
雰囲気のある建物へ入って行った。受付を終えて中へ入ると、古書ばかりが
並び中にいる人も魔法研究者っぽい風貌の人達ばかり。
すれ違う人と比べたら俺達の格好はどう見ても浮いていたが、中央の通路
を歩いていると、並んだ書棚の隙間から俺達より妙な格好をした者達がいた。
1人はフードの部分がハムスターの様な着ぐるみ姿の幼い女の子。
もう1人がガテン系というか土方のおっさんの様な格好の若い女性。
”この歴史の趣のある空間をブチ壊す「存在感」はさすがである”
先輩とララ。2人で何か話し込んでる様だったが、場に合わない格好に声も
出せない俺達が近づいて来る事に気づいたララの方から声を掛けて来た。
「どうしたのあなた達?蒼の洞窟はまだ通行止めのはずだけど」
「おーっ。リシュくん達やんけ、揃ってどーしたん?というかまんま蒼の
メンバーやな。ララちゃんの言う通り、まだ開通してへんで」
「あなた方が揃っている事は何か事情があるのでしょう。4人で立ったまま、
というのも何だから、こちらの椅子へ座りなさい」
ララが俺達の方へ顔を向けて話しかけた事によって先輩も気づいたが、
2人で何をしているのか聞くよりも、まず自分達事、4人揃って古文書館へ
来ている説明した方がいいと判断して、ジーンの蜘蛛ミッションやあの紫
オーラの事を先輩達に話そうとすると、椅子へ座る様にララから指示された。
「館・・・あー、おったなー。アイツもう沸いてきたんか、厄介な奴やで」
「そうね。今のあなた達では全く歯が立たない相手だと思うわ」
4人全員が一撃で女神像送りになった。この話から先輩なら爆笑するかと
思っていたが反応は至って普通というか、表情が曇って厄介と口にしている。
こちら側の戦力を冷静に戦力の分析をしてくる。着ぐるみお子様メイジ。
今はツッコんじゃいけない雰囲気がしたので4人共スルーを決め込んでいた。
「あの館に居る蜘蛛を倒さないと、ミッションも出来そうにないんですよ。
先輩、何かいい考えありませんか?」
あの圧倒的な巨大蜘蛛に浮かぶ手立てのない俺は、先輩に頼み込む様に
話してみた。さっきの言い方だと、多分過去に戦った経験がある。
ララもそう、シンシアを入れた4人で歯が立たない。その実力差が俺達と
アイツの間にある事を理解していなければ、直接的な言葉を使わないだろう。
「2人共、探しモノがあって古文書館に居るのに、ココまで押し掛ける形に
なってすまない。1度あの館でミッションをした時は問題なかったんだが」
「しゃーない。後輩やパーティメンバーが困っとるんや。ミッションも
行えないんじゃ問題あり過ぎやし、うちとララちゃんも行ったるわ」
俺が話をつけようと思っていたら、隣に居たジーンが先輩とララに向かって
押し掛ける形になった事と、自分のミッション場所選択ミスであるのを謝って
いる。おそらく4人でやっていた時にリーダーとして先導していた。そのケジ
メでもあるのだろう。先輩とララが加わると、代わってしまう事になるし。
「やたっ。さすが先輩、でも本当にいいのですか?」
「え!?ちょっと、何で私が、元々貴女と偶然ココで会ったのだし。
私には調べる事が・・・」
先輩の言葉を聞いて、2人で何かを調べていたと思って本当に良いのか
聞いたのだが、ララは先輩の「うちとララちゃんも」というのに驚いていて、
俺達に付いて行く理由がないと言った感じで話していたが、一言も喋らない
アリッサのしゅんとした表情から、何かを察したのか
「わかったわよ。アリッサにはかわいい服ももらってるし。喋らないくらい
本当は悔し思いをしたのね。安心しなさい、一緒に行くわ」
「わーいっ!ありがとうララちゃん」
椅子に座っているララの後ろからジャレるアリッサだが、喋らなかったのは
悔しさを思い出していた?俺達に、あまりその感情を見せてなかったというよ
り、おちゃらけてたり、ゴーレムくんの扱いが捨て駒の様だったので、そこま
で気にしてないと思っていた。でも実際の内面は違う様だ。ララしか見抜けな
かった。ギルドから指導役と聞いてるけど、本当に何者なんだ・・・。
”しっかし、やっぱアリッサの趣味だったんだその着ぐるみ”とツッコむ僕。
お読み頂き有難うございます。
拙い文章ですがマイペースに更新しているので宜しくです。




