新たなスキル
登場人物
リシュ・レミルトン 駆け出し盗賊
リティア・ウィンフィールド 先輩
シンシア・ルフィン パワー系プリースト
アリッサ・ハーメイ 放し飼いサモナー
ララ・ヘルミナ お子様メイジ
ジーン・トアロ 盾なしウォリアー
マリア・ヴェルナーデ 螺旋階段
ジェフリー・スチュアート ミケポの盾
ルーファス 大剣メイジ
ティアナ マッドネス・オーガ
ウォーレン・ジーク シーフのマスター
修練場へ向かうマスターの後に付いて歩いていると、ふとその背中を
見ながら、俺は多分、数年前にこの人を見た事があるのを思い出した。
あの時はオヤジ達も居たから街で何か揉め事をやらかして、この男が来たと
集会場の様な所で子供の俺には理解不能な事を説明をしていた覚えがある。
”まさかシーフのマスターだとはなー。顔付きがもう世捨て人なのに”
街の裏顔すら超えた闇の黒幕、そんな印象だった。気性の激しい船乗り達が
強張った表情のままだったし、何より放っている雰囲気が尋常じゃない。
逆らう者は「力」で捻じ伏せてきたと言わんばかりのオーラなのだ。
”まあ、実際に面と向かって話してみたら意外と礼儀のある人ではあった”
新たなスキルを習得しようと俺はマスターの後から修練場へと入った。
ここで主にスキルを仕込まれ、もとい体得するのである。
先輩に教わった事がないのは、まだそれほど経験を積んでないからか、
自由に出来る時間を取られるので、本人が拒否しているのかも知れない。
「じゃ、始めるぞ。教えるのはサイドブレイクってやつだ
僅かだが気絶のデバフを与える事が出来る」
「は、はい。よろしくお願いします」
おそらく俺に合わせてくれているのだろうけど、マスターの手にしている
武器は玩具の様なダガーで、刃の部分が引っ込む”ぴこぴこダガー”と
マスターは口にしているけど、武器を手に構えた風貌が狼っぽいのもあって
肉食獣が獲物を狙っているかの様な威圧感がある。しかも体躯が筋骨隆々。
「いいか、柄のところでブン殴れ」
「え?それだけです・・・か」
一瞬だった。瞬く間というのか、電光石火と例えればいいのか
分からないが、気付いたら左のこめかみの辺りに寸止めされたダガーがあった。
一体、マスターがどう動いたのかさっぱりだ。見えないというより超高速で
瞬時にして間合いを詰められた。あの体躯からじゃとても考えれないのに。
「まっ、こいつは繋ぎのスキルだからな。気絶中に次の攻撃が
ハードヒットになりやすい。その為の布石みたいなもんだ」
”うっ動けない。マスターは普通に喋っているのに、体がいうこと利かない”
「どうした。嗚呼、不意つかれたんで体が強張っているのか」
そりゃ吃驚するだろっ。とはツッコめず、俺の感覚が戻って来るまで
マスターは少し離れた場所へ歩き出して休憩している。
あの身長と体格からは想像すら出来ない速さ。先輩より数段も格上だ。
「シーフは基本的に不意打ちスキルが多い。その事を忘れるな
ソロであれPTであれ、真正面からだとデメリットが多いんだよ」
「じゃあ、今のスキルって本来は正面じゃないって事ですか?」
さっき真正面から来られたんだけどな。と思いつつ、マスターの言ってる
事が、どうも”正面では使うな”という風に聞こえたので質問してみたが
「まあ、余り向いてない。外したり耐性のある敵だと厄介な事になる。
それに本来、サイドブレイクは次へ繋げる為のもんだしな」
「次へ繋げる?それってどういう・・・」
「あの跳ねっ返りが得意なヤツだ。気絶してる最中だとハードヒットに
なりやすくダメージが上げる。2連コンボダメージとなるからな」
淡々と話すマスターの言葉から”跳ねっ返りって”と考えたら、
先輩の顔が浮かんで来たっ。お転婆で有名なのか、マスターからしたら手を
焼く娘みたいな。何度もギルドに出戻しているし、数年の付き合いでもある。
そんな思いが過ぎっていると、実際に試して感覚を掴めと促されたので
殴る直前に逆手で柄部分を掴み、こめかみを殴るように練習してみた。
「コイツは人型の敵じゃなくても頭の側面を狙えば、ほぼ有効だ。
耐性あるヤツは経験で覚えるしかないが。まあ、それも楽しみになる」
”そうかなぁ。効かない敵に会うのも嫌なんだけど、どんなヤツ何だろ”
「さて、もう日が暮れてくる。またレベルが上がったら訪ねて来るといい」
マスターに礼を言った後、俺は新たなスキル・サイドブレイクを習得し
ギルドから帰路につこうと思ったが、ここ数日先輩の姿を見ていないので
金庫番のひとに何処に行っているか知らないか尋ねてみる事にした。
※サイドブレイク シーフのスキルでヒットすると気絶効果を持つ。
スキルレベル上昇でダメージも上がり戒律が中立の場合CTが短縮される。
「リっちゃんねぇ。最近、古文書館に通ってるって話してたけど」
古文書?と不思議に思ったが、また単独で何か見つけて文字の解読でも
してるのかなと、そう考えると盗賊って考古学の知識もいるよなぁ。
「そうですか、分りました。情報有難う御座います」
ギルドからの帰り帰り道で古文書に魔法文字があったらどうしよう、とか
そんな事を考えているとよく行く定食屋からの匂いが空きっ腹を刺激してきた。
「ミッション報酬あるし、夕飯でも食っていくか」
スキルを習得して懐に余裕があったから、勢いついでに夕食を摂ろうと
店の中に入ると、おやじの挨拶が聞こえ、適当な席に座って店主のイチオシ
メニューを注文すると、俺の座っている席の斜めに見覚えのある男がいた。
数日前、俺と先輩達と蒼の洞窟へ行ったウォリアーのジーン。
店に入った時は気づかなかったが、妙に泥でボロボロの姿だ。
リペアすら行かずに、飯を食いに来た感じ。几帳面な性格そうなのに。
知らない仲でもない俺は席を立ってジーンの傍に行き、蒼の事で進展が
あったのかとか、どうして泥まみれなのか聞こうとして話しかけた。
「ジーンじゃないか、どうしたんだそんな泥まみれの格好で」
ジーンは何ていうか「心ここにあらず」の様な感じだったが、
俺を見た途端に我にかえった様だった。
「おお、リシュか、いやすまん、考え事をしててな」
「そんなに虚ろ顔のボロボロで何があったんだ?」
俺はジーンの真っ直ぐな性格を認めている事もあり、
定食を食べつつ、これまでの経緯を聞いてみようと隣へ座った。
お読み頂き有難うございます。
拙い文章ですがマイペースに書いています。




