展望デッキにて
登場人物
リシュ・レーン 駆け出し盗賊
リティア・ウィンフィールド 先輩
シンシア・ルフィン プリ盾姐さん
アリッサ・ハーメイ 放し飼いサモナー
ララ・ヘルミナ アデルちゃん
ジーン・トアロ 輩ウォリアー
マリア・ヴェルナーデ ドリル
ジェフリー アロハマシュマロ
ルーファス 大剣メイジ
ティアナ 盛り髪修道士
リリィ ツン系魔法少女
ガルシア ヒゲ面
ウォーレン・ジーク シーフのマスター
パム・レーン 刀マニアの妹君
俺がその光景を目にしたのは、ちょうど船の中央にある展望デッキへ
屋台をしている焼きそば店で買った品を持って、先に買い終わって
テーブルの椅子に腰掛けて食べていたジェフリーにララの渾身の飛び蹴りが
ジェフリーの顔面にメリ込んでいる所だった。
”フルアーマーさえあれば、あれさえあれば防げていたのに!”
◇
出航するのを見学しようと上甲板へと向かった俺達は目下に見える
バークレイルの地と見送りの人達、出発の汽笛を聞いて、
次第に離れてゆく船着場に、無事に戻って来れます様にと願を懸けた。
その後、適当に歩きながら船の上を探索していると展望デッキが見えて来て
椅子やパラソル等があったので、ここで眠くなるまで居ればいいやと
3人で雑談をしたりして時間を潰していたら、デッキに出店の準備が始まり
多くの人達で賑わう様になっていて客船だと屋台もあるのかと驚いた。
果実ジュースを手にしながら3人で夕方近くの爽やかな風を受け、
そういえばどうしてジェフリーがロードを腰掛けしてるのか
聞いても構わないのならその理由を知りたいと思っていたと話したら、
「プリ時代にデバフに苦しんで苦労した事が凄く多くて
その経験からどうしたらいいか考えてたらロードには
肉体系状態異常耐性上昇と精神系状態異常耐性上昇
という耐性を高めるスキルがあるので、それを習得したら良いかなって」
「なるほど、耐性系で2つあるんだ。ロードって上位職なんだよね?
盾役としてパーティーに重要だって言われてるけど」
何だろうジェフリーがまともな意見で返してくると
凄く有能な盾役に思えるけどヘイトを扱えないからな。危ない危ないっ
しかしプリ時代のトラウマみたいなものでロードに成ったのか
戦闘系の講義を先輩と話してた時、盾の上位職だと思っていたのだけど
「うーん、上位職ではなく中位職という位置付けですね。
盾の上位職は男性はロードナイト、女性はヴァルキリーだと聞きましたが」
”えー、男性と女性で分れているのかっ、しかも中位の職なのかロードって”
「それは知らなかった。盾役で女性専用職もあるのだな」
どうやらジェフリーの話しだとプリーストからロードを経た後に
ロードナイト、ヴァルキリーへと転職してゆくのが盾の王道らしいが
アタッカーがヘイトを渡すスキルを所持していなきゃ結局はヘイトを逃がす
事になるから固定のパーティーではアタッカーの方がシーフのヘイトブレイム
というレシーブと逆のスキルを所持しているのがテンプレの様だ。
”なるほど、ヘイトブレイムを所持していれば
盾より先行してモンスターを釣ってきてもヘイトを渡せるしな
狩り場によってはその方がいい場合もあるのかも”
思っていたよりもジェフリーって色々経験してるんだなーと
感心していたら展望デッキ周辺から芳ばしい香りが漂ってきた。
「屋台の人達、準備終わったのかな
夕飯に早いけど、何か食べる?」
「そうだなー、俺は別に構わない。腹減ってるのなら付き合うよ」
「向こうにテーブルもあるし、行きましょうっ」
3人で屋台の方へ行こうとしたら、先にテーブルを抑えておくからと
言ってジーンはジェフリーに自分の分も1つ買ってくる様に伝えた。
「街で見る屋台とはちょっと趣が違いますね、うーん、どれにしよう」
俺は用がない限り街中へは行かないのだけど
ジェフリーは違っているみたいで食レポとかしてるのかと思うほど詳しい。
「タコ焼きと焼きそばにしようかな
海の上ででタコ焼きって乙なものですよね」
「ま、まあ、いいんじゃない」
”タコさんからしたら壷ん中にブチ込むぞコラァ”だろうけど
そんな事を考えながら屋台でタコ焼きと焼きそばを買って
ジーンの元へ向かって行くジェフリーを見た後に、
何を食べようかと屋台を見回って、イカ焼きもあるのかっ、
これにしようと注文して待っているとアリッサと先輩もデッキへ
来ていてジーンの近くに座って楽しげに話していた。
◇
ージェフリーがテーブルの席に着いた同時刻ー
”ハッ、こ、此処は”
意識を取り戻したララの目の前にはシンシアが居て
部屋の中にある洋椅子に座って一息ついてる様子だった。
「シンシアっ、何故ここにいるの?というかここは何処?
アリッサは?私たしか・・・紅茶を飲もうとして」
「あ、ララちゃん?えーと、今は船の上でここは一等洋室って
場所らしいよ、綺麗だよねー」
「違うっ!そうじゃなくて!何で船に乗ってるのっアリッサは?」
激怒しているララが何を言っているのか分らず、
とりあえずこの部屋に来るまでの事をララに説明すると
「なんですっってぇーーーーーーーっ!」
「あ、あれ?知らなかったの?アデルちゃんとアリッサちゃんは
ララちゃんも知ってる様だったから、承知しているのかと」
「するわけないでしょっ!あのガキ共図ったわねっ、今何処にいるのっ」
普段というかここまで憤慨しているララを見るのは初めてだけど
シーフ達が眠ってしまった時にも口調が荒れて別人みたいだった。
こうなったララは見た目とは違って恐ろしく威圧感があり、
若い頃の方がやんちゃであのシーフのマスターも手に負えなかったと
マリアが言っていたけど、日頃落ち着いているだけに怒ると怖い。
「た、たぶん、展望デッキにいるんじゃないかなー
景色を見たいって言っていたし」
「なるほどね、待ってなさいアリッサッ!」
そういうともの凄い勢いで駆け出して行き、部屋のドアを蹴って開け
敵の待つ展望デッキへと爆進するララであった。
”見つけたわよっ、いきなり気絶させられた恨み、覚悟なさい!”
「あっ、フォーク、落っこっちゃった(アリッサ」
「ぶはっっっ(ジェフリー」
展望デッキの椅子に座ってリティアと話しているアリッサの後頭部へ
飛び蹴りをしたララだったが、アリッサが落し物を拾おうと
屈んだ為に素通りして、その正面にいたジェフリーの顔へ決まった。
「うぉっ、な、なんや!何か飛んで来たでっ」
「ちっ、外したわね。アリッサッ!これはどういう事!」
軽量化されているからか身が軽いララはスッと地面に降り立つと
アリッサ達の方を向いて怒鳴り出した。
「ラ、ララちゃん・・・やっほー、いつ意識を、あっ」
「え?もしかして、知らんかったん?船旅行くの」
俺が見た光景はララの蹴りを受けても微動だにしないジェフリーと
食べていたであろう焼きそばが悲しげに宙へ舞っている所だった。
周りに居た人達も驚いていたが、こっちもだ。
あのララがいきなりダッシュして来てジェフリーに飛び蹴りとは、
いやアリッサを狙ったっぽいか、しかし不意打ちするとはっ
「ど、どうしたんですか、アデルさんが何かしたとか?」
「違うわよっ、私はララ!全くっ、いきなり気絶させて
船に乗せるなんて、アリッサ!」
”えー、ドン引きなくらい怒ってるんだけど、知らなかったのか”
「へ?アリッサがそんな事したん?」
どうやら先輩にも信じられない事らしい。
普段のララとアリッサの関係ならアリッサは確かに怖い者
知らずだけど、ララに断りなく気絶させるとは思えないが・・・。
「ごめんなさい。でも、でも、ララちゃんと一緒に
旅行したかったんだよー(ウソ泣き
※アデルちゃんにララにバレたら泣きまねして
相手の心に訴えかけろと先手を打たれてるので、もう悪魔側のアリッサ。
「でもね、やっていい事と悪い事があるでしょ
私はあれほどリバーガーデンへ行くのは嫌って言ったのに」
「ほー、そうなんや、でもまた何で?中々良い所らしいで
水の都と呼ばれてるそうやし」
「そ、それは色々あるのよ、貴女だって人に言いたくない事が
1つや2つはあるでしょ」
なんだかよく分らないが、アリッサが元凶なのは理解できた。
しかし・・・一番の被害者はジェフリーなんじゃ。
とばっちりで顔面に蹴りを入れられて焼きそばも台無しに。
「まあ、あるっちゃあるけど、そんな事言ったって、もう海の上やで」
「そ、それは確かにそうだけど・・・。はぁ、しょうがないわね
いいアリッサ、もうあんな事はしちゃダメよ」
「許してくれるのっ、わーい。ララちゃんと一緒に行けるー!」
完全に空気だよなー、俺達。特にジーンとジェフリー
いきなり蹴りを食らって食べ物が散らばって呆然としてるけど
不慮の事故みたいな喪失感なんだろうな。
ジーンはなんというか引きつった表情をしているけど
ララがあんな感じになってる事に何も言わないって事は何か知ってるのか
「ちょっと待ちなさい、アリッサ。あなた、もしかしてあの悪魔から
妙な事を言われてたりしてないでしょうね?」
「ア、アデルちゃんの事?な、なら大丈夫だよ
何も言われてないし、言う事をちゃんと聞くいい子だよ」
「・・・(疑いの眼差しのララ
まあいいわ、後でシンシアに監視する様に頼んでおくから」
全く信用されてないのな、アデルちゃん。まあ悪魔だし
信用しろっていう方がオカシイか、シンシア姐さんも大変だなー。
「まあ、ララちゃんも行くって事で良かったやん
イカ焼きでも食べる?お腹空いてると怒りやすくなるで」
「そういう理由でムカついてたワケじゃないんだけどね」
ともかくララもリバーガーデンへ行く事を承諾してくれて良かった。
行きたくなかった理由が気になるけど、それはララの言う通り
他人に話したくない事なのだから余計な詮索は気分を害してしまう
本人が話してもいいと思うまでは、その事には触れずにおこう。
”ここにティアナ達がいなくて良かったー”
お読み頂き有難うございます。
拙い文章ですがマイペースに更新しているので宜しくです。