ステルスを見破るモノ
登場人物
リシュ・レミルトン 駆け出し盗賊
リティア・ウィンフィールド 先輩
シンシア・ルフィン パワー系プリースト
アリッサ・ハーメイ 放し飼いサモナー
ララ・ヘルミナ お子様メイジ 雨がっぱ
ジーン・トアロ 盾なしウォリアー
温泉の入り口へ細心の注意を払って忍び足で近づくリティアの耳に
シンシア達の声が微かに聞こえて来ると、ステルス発動させてカメレオンの
様に周囲に姿を溶け込ましていく。岩戸の間からそーっと様子を見ようとした
リティアは湯船にいるシンシアが薄い青色の光に纏われている事に気づいた。
”!? なんやてーっ、あれはヤバいっ”
見た瞬間にステルス状態でスっと頭をひっこめると、不意に岩戸の
方向を見たシンシアは、違和感というか妙な感覚に襲われている。
「あれ?気のせい、だよね」
岩戸の奥から何かしらの視線を感じて顔を向けたが、暗いだけで何も
見えず。リティア達が見張っているので何か勘違いをしていると思い直した。
”さすがシンシア、トーチライトとは万全の対策やで”
※トーチライト プリーストのスキル、自身の回りに淡い光を纏わせ
広範囲でステルスを見破る事ができ、相手に暗闇と麻痺を与える。継承不可
トーチライトに見破られたら暗闇と麻痺になってしまうので、
気配を悟られない様に、岩戸の影から一歩ずつ徐々に離れていくリティア
数歩下がると、そのままリリュ達の方へ向かって進んで行った。
「どうしたの?岩戸の方を向いていたみたいだけど」
「うーん。リっちゃんかなぁと思ったけど勘違いみたい」
体を洗っていたララはシンシアが岩戸を向いた事を見ていて、
何かに気づいたのではと話しかけるが、シンシアはリティアがやって
来たと思ったら勘違いで、特に何も感じなかった事を説明すると
「それって使った人に見破ったかわからないのー?」
湯船から腕だけ出しているアリッサはララに話しかけていて、シンシアの
行動を見ていなかったが淡く光っているのが気になって魔法の事を聞いている。
「ステルスの使用者が範囲内に入ると赤色に変わるけど、今は平気ですよ」
「へー、そうなんだ。まあ、混浴の温泉みたいなモノだしねー。入りたい
人が来てもしょうがないかー」
「入り口でララちゃんが驚いていたでしょう。りっちゃんがまた使うかも
知れないので、安全の為にね」
シンシアの言っている事に?のアリッサ。ステルスを使って
リティアが現れた時、驚くというより興味が湧いて、メイジにも
透明になれるスキルってあるのかララに聞いていたが、あれはシーフ
のみの固有スキルだと説明すると、残念そうな顔をしていたのだ。
シンシアの平気という言葉に安堵したララは体を洗い流しながら、
アリッサがいつかシーフになるかも知れないと心の中で思っていた。
◇
丁度その頃。俺とジーンは先輩を止めれなかった事をどうすべきか考えて、
同性とはいえステルスでの覗き行為は”軽犯罪”にあたり、禁錮か罰金系に
処されるレベルの事。しかし街中ではないから、どうなるのか話していると
「いくら同性だからといって覗くのはさすがに、それもスキルでだぞ」
「分かっているけど、先輩は俺のいう事を聞くようなタイプじゃない。
まるで動物におもちゃをあげるような、そうマタタビ的な興味を
そそるものが他にあればっ」
そんな事を口走っていると温泉入り口の方から先輩の姿が
見えたので思い留まってくれたのかとおもったが、先輩の表情は
どこか煮え切っていない様で目的が達成されなかった憤りにも
似ていて考え込む様な仕草で、俺たちの方へ歩いて来る。
「まっさか、トーチライトとはのー
リシュくんもあのプリーストスキルには気をつけや」
いや普通はキャンプ「野宿」時に風呂を覗く様な事はしないんじゃ。
トーチライトというスキルは無法者がステルスを使って近づいて来るのを防ぐ
為と聞いて戦慄したが、先輩はそんな奴らとも遭遇した事があるのだろうか。
頭の中でそう思っていると先輩は袋から着替えを取り出していた。
「やっぱり入りたくなってん。近づかん方がええでー」
「行きませんってっ、湯冷めしない様に気をつけて下さいよー」
やっぱり、そうなったかと見送っていると颯爽と岩戸へ続く闇の中へ
消えていく先輩。俺とジーンは互いに目を合わせ、とりあえず形だけでも
見張りをする。数十分後、浴衣姿で湯上りの4人が話していたのは
ララがいるので、安全を考慮して詰め所に宿を借りようかという事だった。