5月 無から有を生み出す為、知見を深めろ
研究を始めて1ヵ月。相も変わらず交互に研究会資料を作っていた。
大学の入校が可能になったが、行っても何もすることができないので行くことはなかった。何せ実験装置が無いのだから。
というのも、今回僕らが取り組むことになった研究テーマは新規研究テーマであり、つい最近大学側が予算を出してくれたようなテーマだ。その為、研究の要となる実験装置がまだ完成していない。故に、研究会資料も机上の空論を並べては机を片付ける、といった具合だった。
社会はまだ感染症による影響で外に出るのも憚られる状態で、授業も1ヵ月遅れの5月になってようやく開始。それもオンラインで行うようになった。
そんなこともあって僕の1週間は『研究会と講義のある月曜を如何に乗り切るか』で回っていた。
一般人は1週間が
月火水木金土日
だとすれば僕は
月土日日日日日
になっていたのだ。
といっても、何もせずただひたすらどうぶつの森でカブ取引に熱中するわけにもいかない。実験装置が無いのならば論文を読んだり…論文を詠んだり、論文を呼んだりすればいい。
ただ、論文を読むにあたってもわからない単語が多すぎる。その為、僕は「知見を深める」に徹していた。
研究科資料を作る際に「論文読もうと思ったけどわからない単語多すぎて泣いちゃった~!だからちょいちょい調べました!」ではあまりにも薄い。だからこう書いた。
『研究に必要な学術的知識の収集等を行った。
また、共同研究者同士で認識の齟齬がないかを確認するために互いにコミュニケーションを取った。』
と。
あとはもったいぶって調べた内容やらを書いてその場を乗り切り続けた。
順調だった。当初に考えていた大学4年生生活が見え始めていた。しかし、そんな緩み切った自分に喝を入れるような出来事が起きた。
それは僕が1~2限の講義を受け終わり、昼飯を食べた後のことだった。母から「春キャベツを買ってきてくれ」と頼まれたのだ。
僕は何も気にせず、家から自転車に乗って少し離れたところのスーパーまで買い物に行った。しかし、この時研究会のことを完全に失念していたのである。
家に帰る頃には研究会は終わっており、僕は罪悪感でいっぱいになっていた。春キャベツは新鮮なものが買えたが、その代償は大きかった。
それからしばらく僕は教授から何か恐ろしいメールが来るのではないかと怯え続けたが、そんなことは何もなかった。
それからの5月は、始まったばかりのオンライン講義で浮足立つ人々とオンライン麻雀を始めたり、人と会わないことを理由に親知らずを抜いたりしていると終わったのだった。
余談だが、親知らずを縫いたら右の頬が凄く腫れた。もうこれでもかってくらい腫れた。2週間以上は顔の右と左で異なる輪郭を描いていたことだろう。
この読者が親知らずを抜くときは、特に下の歯を抜く時はある程度覚悟を決めてから行ってもらいたい。