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3月 卒業研究黙示録F.Lab ~謝辞~

言葉は意図を近似的に表示するものでしかない。

多くの場合、どう頑張っても文章では全てを尽くせない。

・スティーヴン・キング

3月。卒業旅行に行くこともなく月日は流れていく。僕らの学生生活はもう終わりが見えていた。


3月1日、成績発表。僕らは全員、卒業が決まった。

そして桜が咲き始めた頃、僕らは卒業した。


大学生活4年間というのはひどくあっという間に感じるものだったと、今になって思う。

特に最後の1年間。4年生として送った1年間はまさに一瞬だった。楽しい時間程時間は早く過ぎると言うが、まさにそれだろう。苦いも甘いも辛いもしんどいもキツいも、全部ひっくるめて「楽しかった」と思えたからこそかもしれない。


卒業式の後、僕らまた研究室に戻った。後輩への研究の引継ぎの為だ。集まったのは僕含めて6人。他の人たちは既に引継ぎ等を終わらせていたらしく、学位を貰った後すぐに帰ってしまった。


共同研究者が熱心に後輩指導を行う横で、僕はパソコンのマウスカーソルを動かしながらひたすら面をクリックしてい(クッキー焼いてた)た。別にサボっていたわけではない。共同研究者の方から、「お前が教えると後輩が後で苦労しそう」と言ったのだ。俗にいう『戦力外通告』である。



引継ぎを終え後輩たちが返った後は、研究室で思い出話を少し、そして今後将来のことをたっぷり話し合った。社会に出てからの不安を拭い去る為に。

時間はあっという間に過ぎ夜は更け、そして皆…それぞれ別々の道を進みだした。



この1年、僕が優雅な大学4年生を送れた最も大きな理由は素晴らしい同期に囲まれたことにあると思う。僕含めた10人の同期、その中でも最後に研究室に集まった5人の男達とは特に仲良くしてもらった。


卒論発表会で寝坊した彼はウィンタースポーツにほんの少し関連した会社で働き「スキーのリフト券、お前らの分会社持ちで仕入れてやるよ!」と豪語していた。春から1人暮らしだが、寝坊しないかだけが心配だ。


寝坊した彼を助けた、彼の高校の頃からの同級生は研究室で結婚の話が上がった時「いや、結婚はないだろ。」と言い切っていた。きっとこれからも趣味のキャンプや釣りといった趣味に生きるはずだ。


皆の研究を助けていた「英雄」と呼ばれた男は勤務地が北関東となってしまい描いていた人生設計が崩れ、会社の寮暮らしに不安を抱いていた。それでも出世して"上"に向かう野心を抱いている。きっと彼なら出世することだろう。


研究室の同期の中には「英雄」と同じ会社に入社した男もいた。彼は希望通りの勤務地が決まって賃貸アパートを探している。知り合いが別の勤務地で少し不安そうだったが、それ以上に新生活を楽しみにしているようだった。


共同研究者も卒業後は北関東で暮らすことが決まっていた。駅前にコンビニひとつないような土地で一人暮らしをすることが決まってカッコいい車を買ったが、趣味に生きる彼から「お前が住むところ、軽トラックの方が似合うんじゃないのか?」と言われて「許せねぇ」と返事をした。




そして僕は、いつだったか話のネタになった「この研究室の生活という冒険の小説」を書き終えようとしていた。


もちろん、ここまで来たら最後のページには

「私はあの大学4年生の時に持った友人に勝る友人を、その後二度と持った事はない。無二の親友と言うのは誰でもそうなのではないだろうか?」

と締め括ろうじゃないか。



これから先、僕らは社会人になり、僕らの研究室の同期達と会う機会は次第に減っていき、時と共に友達も変わり、たまにTwitterでリプライを交わすだけになるかもしれない。それでも僕は彼らを忘れる事はないだろう。大学4年生で共に研究し遊び生まれた友情は永遠のものだ。

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