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5.嫌われ警官の意思

「またね、エマ」


そのハスキーな声が耳から離れない。

ぐらぐらと頭の中で同じ言葉がリピートされる。

あの黒い瞳の奥は、何を見ていたのだろう。

沙也加は暗く渦巻く闇に呑み込まれかけていた。


「先生?」


葉に肩を触れられはっと顔をあげた沙也加は、同時に襲ってきた腕の痛みに眉を顰めた。


「い、った……」

「先生、どこか怪我を?」


あの時強く握られた腕には、ほんのりと爪痕が残っている。

爪を立てていたのか、あの女。

爪痕の端からじわりと滲む血に気付いた葉は、細い指先でその血を拭った。


「触るな!」

「あまり大声を出さないでください。大した傷ではないとはいえ、血を流したまま歩かれては困ります」

「不平等に正義感を振り回す職業についている人間は嫌いだ」

「……そうですか」


その時葉は瞬時に察した。否、改めて実感した。

沙也加は警官に助けを求めたことがあるのだろう。

警官に泣いて縋って、それでもその時警官は"救ってくれなかった"のだ。

助けを求めにやってくる人は後を絶たない。

必然的に優先順位を決める他なく、救えない人も出てくるのが現実。

そして沙也加はその一人となってしまったが故、警官が嫌いなのだろう。


「帰りましょう。少し回り道をしますがいいですか」

「そこまで警戒する必要ある?家、もうバレてるのに」

「それでも、念には念を」

「……そう」


以前葉は、奈波に言った。

"信頼されず、結局は守ってくれないのだと思われていても、それでも真摯に守るのが自分の務めだ"と。

嫌がる沙也加の手を離れないように強く握る葉は、まだ幼い沙也加を見下ろして目を細める。

沙也加にとって葉の言葉はひどく掠れ、嘘にまみれて聞こえているのだろう。

それでもそれがひどく透明で真実に聞こえる日が来ることを、葉は信じてやまない。


「あなたを守ることが、私の仕事なので」

「きもちわるい」


それでも葉は、瀧見エマを守り続ける。


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