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4.対峙する日

翌日、沙也加は葉と共に最寄り駅の映画館にいた。


「本当に来んのかなー」

「さあ、どうでしょう」


指定された「少女旋律血痕」、席は一番後ろ。葉はなるべく近くの席をとって周囲の警戒をしている。

一方で沙也加は楽しそうにきょろきょろと"S"の姿を探している。

しかし場内には沙也加と葉の二人のみ。


上映ブザーが鳴り響き、場内が暗くなる。

沙也加はいささか不満そうにしながら映画を観るために、意識を集中させる。その時。

すり足のスニーカーの音。暗くて姿はわからないが、誰かが入ってきた。

そして徐に沙也加の二つ隣に座り、脚を組む。


「やあ、君がエマだね」

「……ずるいなあ。上映が始まってからくるなんて」

「君だってずるいな。護衛を連れてくるなんて聞いてないよ」


ハスキーな声だが、相手は女性だろう。

それは足音の軽さからもわかる。拳銃に手をかけながら葉はそう推理した。

ぱちん、ぱちん、と指を鳴らす"S"は、つまらなそうに映画を観ながら沙也加に声をかける。


「エマ、君の本当の名前はなに?」

「名乗ってはいけません」

「瀧見エマ。有名作家でありながら実名も性別も、私生活もすべて不明。

 謎の作家としても有名だよね。Wikipediaにすらまったく情報がないんだもの」

「そんなこと話に来たの?なんだ、Sってただのファン?だったらあんたと観る気はないし帰るわ」

「ただのファンと一緒にしてほしくないなあ。ああ、でも今日君のことを一つ知れたから今は満足かな」


不安定な音色で放たれる言葉が君が悪く、不協和音に近い。

沙也加は面倒くさそうにため息を一つ吐き、場内から立ち去ろうと立ち上がる。

その腕を強く握った"S"は、楽しそうに笑いながら沙也加を見上げた。


「エマは、女の子だったんだね」


その瞳に光はなかった。黒く渦巻く闇だけが広がっている。

笑っているのに、笑っていなかった。沙也加は目を丸くしてその手を振りほどく。

これ以上近づいたら、その闇に飲まれそうだ。


「いくよ」

「はい」


だけどその闇が、ひどく魅力的でもあった。


「またね、エマ」


そんな捨て台詞を吐くと、沙也加にそれ以上近づく事なく“S”は去っていった。驚くほど呆気なく、だ

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