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人魚の水しぶき  作者: 枷羽
9/38

9 ほっぺた

「ライちゃん!」

 アタシが入り江に入ってきてすぐにリューは姿を現した。リューは今日も元気にアタシを呼んだ。彼女はパシャっとヒレで水を叩き、嬉しそうに泳ぎ寄ってきた。


「よう、リュー。」

 リューに挨拶をした。アタシは今日、画架(イーゼル)とキャンパス二枚、鉛筆を持ってきた。今日は下書きをしようと思って、道具箱の中から鉛筆だけ持ってきたのだ。首にはリューから貰った琥珀で作ったペンダントを忘れずに下げていた。


「ライちゃん、それキレイ!どうしたの?」

 アタシの首のペンダントを指差してリューは言った。彼女はキラキラしたものやキレイなものが好きなのだろう。もしあの硝子細工を彼女にプレゼントしたら、リューは喜んでくれただろうか。

いいや、とても喜ぶに違いない。


「ああ、これか?昨日アンタから貰ったの石をペンダントにしたんだ。」

 パチンと留め具を外して、彼女に見せた。白銀の鎖が海の光を受けて青色を帯びている。琥珀は青さに負けずに、黄金色に輝いていた。


 キラキラと目を輝かせて、彼女はペンダントを見た。


「つけてみるか?」

 彼女はきっと元気にうん、と返事をするだろう。どれだけ似合うか、アタシも見てみたかった。リューは少し考えて言った。


「ううん。それはライちゃんのもの。それに、私よりライちゃんの方が似合ってるよ。」

 リューは首を振ってそう言った。緩んだ笑顔でアタシを見た彼女の髪が揺れ、水滴が滴った。


 アタシなんかよりずっと美しい彼女に「似合う」と言われても説得力がないな、と思ったが、リューはアタシのために言ってくれたのだろう。


 ペンダントを首に戻し、日陰になるところに画架(イーゼル)を立て、キャンパスを立てかけた。

 もちろん、リューも砂浜にあがり、アタシの隣に来た。あのキャンパスを渡すと、彼女は自分からよく見えるところの岩に立てかけた。


「ライちゃん、足、また触ってもいい?」

「いいよ。」

 アタシは快く承諾する。下半身が魚の彼女は、アタシ達人間が立って歩いていることが奇妙でならないのだろう。そう考えると、不思議な気持ちだ。だってアタシ達が普通と思ってることが、彼女には普通じゃないから。こんなに近くにいて、親密のに触れ合っているのに、価値観は根本的に違うのだ。


 リューがちょんちょんとアタシの足を触る。ちょっとくすぐったいが、不思議と絵に集中できた。


「ねーねー、ライちゃん!」

 下書きが半分ほど終わった時、リューがアタシを呼んだ。いいところなので、描き込んでから返事をする。


「なんだ?」

 キャンパスにはリューにあげた絵と同じ構図の、蒼い世界の風景が、下絵だが、そこに有った。


「あのね、そこの上で寝てもいい?」

 彼女はアタシの太腿を指差して言った。膝枕をしろってことだろうか?


「いいよ。」

 可愛いやつだな、と思いながら承諾した。アタシの太腿はあんまり感触はよくないと思うけれど…。二言目にはライちゃん、ライちゃんで、昔飼っていたた犬っころみたいな子だ。


「やった!」

 リューはアタシの太腿に飛び込んできた。彼女の体重がアタシの太腿にのしかかり、痛かったが彼女のひんやりとした体温で痛みはすぐ引いた。

 彼女はほっぺたでアタシの太腿の感触を確かめているようで、すごくくすぐったい。


「んー、お母さんとは違うな。でもなんか安心する。」

 お母さんとは違うっていうのは当たり前だろ、と思うがそう言われて悪い気はしない。


「ライちゃん、このままここで絵を見てていい?」

「どうぞ。」

 彼女の体温が心地よくって、下書きも進むだろう。

 ふふふっと笑い、嬉しそうなリュー。ちょっとワガママなところがあるってとこがリューの可愛いところだと思った。


 なんだか友達より妹のようだな、と思いながら下書きを進める。


 すっすっと鉛筆が進む。キャンパスにはアタシの思い描いた景色―。あの、リューが見せてくれた蒼い世界の下地(ベース)が乗っていく。


 あのキャンパスの続きを描きたい。


 その一心で下書きをし続ける。


 だって、あの空白に何を描くか、わかったんだから―。

 だけど、キャンパスの中心は下書きをしなかった。リューを驚かせたいから、キャンパスの中心は空白のままにした。


「リュー。見てくれ、できたよ。」

 そう言って空を仰いだアタシは、リューの返事を待った。すごいね、と言うのか。はたまたなぜ空白なのかと問うだろうか?

 しかし、リューの返事はない。

 変だなと思って彼女をみた。リューは眠っていた。すやすやと寝息をたてて幸せそうだ。


 アタシはリューを起こさぬよう、そっとキャンパスなどを片付けた。

 ゆっくり焦らずに描こう。今回はいい絵ができそうだ。


 アタシはふと彼女のほっぺたを触ってみたくなった。彼女の白さもあって、とても柔らかそうだ。

 人差し指でほっぺたを触ると、ふにっとしており予想通り柔らかい。なんというか、異国のお菓子「プディング」を少し硬く仕上げた感じだ。

 彼女の体温が低いのはきっと、海で生きているからだろう。


 彼女は起きる気配が全くないので、ほっぺたを寄せて変顔を作ったり、口角を上げて笑顔にしたり。

 時折不快そうにリューは顔をしかめるが、その姿もまた可愛らしい。


 ふにふにと飽きのこない触り心地だが、ちょっとやりすぎた気がして止めることにした。

あとがきです。

ちょっとキリが悪かった気がするんですが、長くなりそうなのでいい感じのところで切らせていただきました。

そういえば、番外編も書こうかなって思っています。

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