事案ですか?
体育館に着いた俺は、体育委員の強制労ど......いや、積極的協力によって並べられたパイプ椅子に座る。しばらくすると、新入生の保護者も入場してきた。母さんを探そうかとも思ったが、変にキョロキョロして体育教師に怒られても面倒なので、やめておく。
ところで、体育教師ってしばしば理不尽な怒り方すること、あるよな。
いつだったかはよく覚えてないが、ある日体操服を家に忘れてしまったことがあった。それで、忘れ物をした場合必ず授業前に伝達しろというルールがあったので、嫌々職員室に報告に行った。勿論普通に怒られたんだが、その後が酷かった。
「とにかく気を付けろよ!......おい。お前のベルト、捻れてるぞ。お前の性根も捻れてるんじゃないか?」
は?と思った。
コイツぶん殴ろうかと思った。
普通に注意したのでいいじゃん!
なんかムカついてたんだろうが酷いな!
教師の発言として完全アウトじゃないか!
生徒が体操服忘れて落ち込んでんだから、寧ろそこでフォローしてくれよ!
俺が教師だったら、こう言うね!
『おい。お前のベルト、メビウスの輪になってるぞ。ハハ、朝急いでたんだな。なぁに大丈夫だ、こんなことでお前の価値は決まらない。お前の秘めたる可能性は無限大だからな。そう、インフィニティだ。体操服忘れたぐらい、どうってことないさ。でも、次は気を付けろよ』
うむ、神対応。でもちょっと長いな。あと問題点を挙げるとすれば、生徒の中で俺のあだ名が、インフィニティ酒井になってしまう事だ。絶対に嫌だ。
閑話休題。
「新入生が入場します。拍手でお迎え下さい!」
アナウンスが流れると後方の扉が開き、ぞろぞろと新入生が歩いて来る。
3組の列に香織が居た。艶めいた黒髪を揺らしながら、キリッとした顔で堂々と歩いていく。うん、やっぱり飛び抜けて可愛いな。あの子と1時間以上抱き合って寝ていたとは......ああ、妹って素晴らしい。
俺が兄の愉悦に浸っている間に式が進む。気がつけば、校歌斉唱のセクション。ピアノ伴奏に合わせて、ちゃんと大きな声を出して歌う。
式が終わり、教室に戻る。今日はもう放課になったので、とっとと帰る事にした。
玄関のドアを開けると、ちょうど香織がリビングから出て来た。
「あれ、お帰りお兄ちゃん!早かったね!」
「ただいま、香織。今日は新入生以外も昼で終わったんだよ」
「そうだったんだ〜。あ、お菓子あるよ!ねえ、一緒に食べよ?」
「いいな。お腹空いてたんだ。食べよう」
香織のお誘いを受ける。それを聞いてにっこり笑い、ふんふん鼻歌を歌いながら香織が取ってきたお菓子は、ヤングヤングなつけボーだった。
棒状のクラッカーをチョコにディップして食べるアレ。昔は俺もよく買ってたけど、ここんとこ食べてない。久々だ。
「えへへ、美味しいよね〜これ。チョコをつけてっ......はい、お兄ちゃん!あ〜ん♡」
香織があーんしてきた。俺は言われるがまま口を開け、カリッとクラッカーを砕く。......うおお、結構甘いなあコレ!こんな甘かったかな?まあ、美味いけど。
「美味しいでしょ?ねえお兄ちゃん、私にもあーんして?」
元々するつもりだった。あーんは甘やかしの定番じゃないか。
「ああ、分かった。......ほら、あーん」
「あ〜ん......」
たっぷりチョコをつけたクラッカーを俺が持つと、香織は口を開けた。
綺麗なピンク色の舌が、唾液でぬらついている。
余計な力が抜けて、だらしない顔をしている。
上目遣いで、じっと俺のことを見つめている。
まだか、まだかと急かされている気がする。
それでも香織は、ただ黙って待っている。
......可愛いなあ。期待に応え、クラッカーを香織の口に挿入。
「あむっ......んっ......えおっ、うむっ......ぷはっ、甘ぁい♡」
これはヤバイ。どうやら香織は、チョコを舐める派だったらしい。お行儀が悪いけど、今そんなことはどうでも良い。香織は幸せそうな顔をして、クラッカーのチョコを必死にしゃぶっている。ただそれだけだ。気持ちを鎮めろ。
......やっぱりえっちぃ。
「う〜ん、やっぱり美味しい♡もっと頂戴?」
この後、全部食べ切るまで香織にあーんし続けた。俺のお腹はほとんど満たされなかったが、別の意味で満足したから問題ないな。