性格いいイケメンは最強ってそれ一番言われてるから
結局、目が覚めたのは7時50分だった。急いで家を出れば、何とか遅刻せずに済む時間だ。そこは一安心。
今度こそ香織をちゃんと起こす。
「えへへ、お寝坊しちゃった。お兄ちゃん、おはよう!また一緒に寝たいなぁ......♡」
「ああ、そうだな。......また今度な」
香織は本当、甘えんぼだな。いや、めちゃくちゃ嬉しいけど。
すっかり目が覚めた様子の香織と、一緒にリビングへ向かう。父さんは早くから仕事に行ってしまって、もう居ない。あかりさん、いや母さんは朝のニュースを観ながら、コーヒーを飲んでいた。
「あら2人とも、おはよう。ねぼすけね?」
「おはよう、お母さん!」
「おはよう」
「ふふ、今日は入学式ね。にしても2人が同じ高校で良かったわ、安心だもの」
そう、今日は入学式。俺の通う如月高校に、香織が入学するのだ。
如月高校は、俺の住む深田市内にある公立高校だ。1学年につき6クラス。公立にしては小規模だな。
偏差値はまあまあ高めで、進学校って言われたり、そこまでは言われなかったり、そんな感じ。
うーん、なんか分かりにくいな。俺の実体験を話そうか。
中学のクラスメイトに「俺、如月高校に行くんだ」って言ったら、「へー、お前って結構頭良かったんだな。どっからどうみても良く分からない顔してるのに」って言われた。
......いや、最後の一言余計だろ!
チャラいとかアホ面とかならまだ分かるが、良く分からないってなんだよ!
どうか俺の顔にジャンルをくれよ!
もうバラエティとかで良いよ!
某太鼓ゲーじみてるけどな!
顔面を選ぶドン!ってか!
やかましいわ!
はあ......まあ、理不尽なことを言ったあいつは、隣町の良く分からない私立に行ったはずだ。「良く分からないヤツ」の称号はあいつにやろう。おめでとう。
それで、校名になぞらえた如月祭という学園祭が2月にあるのも特徴的だ。しかも毎年、15日か16日。つまり、バレンタインで恋人が出来れば一緒に回れるって感じだ。最初この存在を知ったときはどこのギャルゲだと思った。
去年の俺は、チョコは幾つか貰ったものの、結局誰にも告白されなかった。仲のいい女子はそれなりにいたのにな。帰って咽び泣いたよ、あの日は。
苦い記憶を思い起こしながら身支度を済ませる。
今日香織は母さんと一緒に行くようなので、先に俺は1人で学校へ。
「お兄ちゃん、気をつけてね!行ってらっしゃい!」
「ああ、行ってきます」
可愛く香織が、見送ってくれた。行ってらっしゃいって言ってくれる人が居るのって、いいな。
ちょっと急いだおかげで無事間に合った俺は、下駄箱に貼り出された新クラスをチェック。1組か。どれどれ......おっ!あいつも居るじゃないか!ラッキーだな。
俺は階段を駆け上がり、廊下の最奥の教室に入った。
「仁、おはよう!今年もよろしく!」
「おはよう、蓮。ああ、よろしく!」
爽やかに言葉を返した彼の名前は、佐伯仁。仁とは去年同じクラスとなり出席番号も近かったので、いつの間にか仲良くなった。今となっては俺の親友だ。
頭脳明晰、質実剛健、眉目秀麗とえげつないステータスを持っている。しかもめっちゃ気が効くし優しいので、やはりモテる。モテまくる。バレンタインの日は行列が出来ていたし、最近ファンクラブが出来たと風の噂で聞いた。
正直、羨ましい。俺なんかジャンル不明だからな。
そんなラノベの主人公みたいな仁に、香織のことを話す。
「聞いてくれよ、仁。なんと俺、一個下の妹が出来たんだ」
「ん......?ああ、なるほど。親父さんが再婚したのか!おめでたい。しかも妹が出来たなんて、羨ましいな!俺には姉しかいないけど、年下の兄弟が欲しかったから」
そうなのか。イメージ無いな。
「それでさ、今日入学するんだ、ここに!」
「お、マジか。今度会わせてくれよ」
「ああ、勿論。でも、いきなり告白とかするなよ。いくら仁でも、あげないからな」
もしこいつにあげたら多分香織を幸せにしてくれるだろうが、まだあげたくない。いや、絶対あげたくない。
「俺が惚れる前提なんだな。というかわざわざそんなこと言うとは、溺愛してるな?」
「ああ。香織は、あっ妹の名前、香織っていうんだけどな?もうね、めっちゃ可愛い。なんと、俺のことお兄ちゃんって呼んでくれるんだぜ?ああ、甘やかしたくてたまらない!」
「おいおい、一個下だろ?あんま子供扱いすんなよ?ま、妹を甘やかしたくなるのは兄の性かもしれんがな......。あ、もう移動の時間だな」
話しているうちに、いつの間にか開場の時間になっていた。周りの皆も続々と体育館に向かい始める。
それじゃ、俺も行くか。