マッチポンプ・モーニング
「おはようございまーーーーーーす......」
寝起きドッキリ定番の挨拶から入る。様式美というやつだ。俺はアラームを止め、ドアをゆっくり開け、香織の部屋に向かう。隣の部屋なので抜足・差足・忍び足の必要性は皆無だが、一応しておく。
なるほど、居空きする輩の気持ちってこんな感じか。貴重な体験だ。
いや、糧とならないけど!
今後に活かさないけど!
活かしたらいつか捕まることになるだろうな!
未来の俺、大丈夫かな?
『ええ、あの時妹の部屋に侵入したのが、私のルーツでした』
しっかり捕まってるじゃねえか!
あとそのルーツ良く刑事の前で堂々と言えたな!正直者め!
閑話休題。
香織の部屋のドアを開けると、スースー寝息が聞こえる。香織は横向きで寝るタイプらしく、今は壁側を向いていて顔は見えない。
準備オッケー。いくぞ。香織の肩を掴んで、ちょっと揺らす。
「んっ......んうぅ♡」
くっ!声がえっちぃな!
「か、香織ー、朝だぞー」
「あ、お兄ちゃ〜ん、ふふ♡」
香織はしっかり寝ぼけている。俺が香織の可愛さでぶっ倒れそうなこと以外は、作戦通りだ。
「なんだ、まだ眠いのか?」
「ん......ねむいよ〜。お願い、寝かせて?」
「そうか、じゃあ時間が来たら起こしてあげるから、寝てて良いぞ」
「んー......。ねぇ、お兄ちゃんっ」
「なんだ?」
あー、もう起きることにしたのかな?まあ作戦は大方うまく行ったから、良しとしよう。
......なんて、油断してた。
「一緒に寝よ♡」
香織は、突然俺の腕を掴んでベッドの中に引きずり込んだ。びっくりして逃げ出しそうになったが、可愛い妹の頼みだ。嫌だなんて言えない。
「......そうだな。一緒に寝ようか」
俺は後で起こしに来るのを諦めて、香織のベッドに入る。ベッドは狭い。当然、香織と密着することになる。
部屋は静まり返っている。
体温が伝わる。
何故か甘い匂いがする。
心臓の鼓動を感じる。
香織が、目の前にいる。
「ふふっ、おやすみっ......♡」
そういって香織は俺をぎゅっと抱き締めた。
......それからは、記憶が無い。
ただ言えるのは、香織は甘え上手だということだ。上手すぎてこっちが飲まれるくらいにな。