ハロー、ビターテイスト
結論。案の定激甘だった。
「あ~ん♡」
「あーん……」
「どう、おいしい?」
「おーっ、美味い!」
「良かった♡あっ、ごめんね!口元拭いてあげるね……うん、キレイになった!――じゃ、こっちのバニラアイスもどうぞ!はい、あ~ん♡」
紗奈も、パフェも、この空間もだ。
うー、カップルらしいと言えば確かに『らしい』が……ずっとあーんされるってどうなんだろう。交代でするのではなく、俺がずっとあーんされ続けている。パフェはもう残り半分になってしまった。どうして紗奈は食べないんだっ!……と思っていたら。
「じゃ、ダーリン!交代ね?」
そう言って、紗奈は俺になっがいスプーンを渡し、口を開けた。待ってました!
「よし……じゃ、あーん」
「あ~ん♡」
イチゴムースとミニカステラを掬い、紗奈のお口に挿入。
「あむっ……う~ん、美味しい!もう一口頂戴?」
「ああ。ほら、あーん」
今度はイチゴアイスを口に運ぶ。
「はむっ……ん~、甘いね♡あっ、プリン食べたいな~」
「プリンか。……ほい、あーん」
クリームまみれのプリンを掬って……
そんな感じで今度は俺がずっとあーんし続けた。……パフェを掬って、入れて、幸せそうな顔を見て。それで、あーんって言って、言われた通り開いた口にまた入れて。うむ、甘やかしたい俺にとって、あーんの幸福度半端ないわ。……紗奈も同じ気持ちだったのかもな。それか、幼稚園時代の俺が口走ったという『お嫁さんには甘やかしてほしい』って願いを叶えてくれているのか……どちらにせよ、良い時間だった。いつの間にかコーヒーは冷めてしまっていたけど。
紗奈と別れ、いい気分で帰宅。スマホを見ると、まだ3時を少し過ぎた頃だった。……やることも特に無いし、昼寝しようかな。というか、お腹いっぱいで普通に眠い。子供みたいだな。
俺は小さなあくびをしながら階段を上り、自分の部屋のドアを開ける。
すると、香織がベッドから起き上がって俺を迎え入れた。何となく展開が読めたが、とりあえず2人してベッドに並んで座る。話はそれからだ。
「お兄ちゃん、お帰り~♡」
「なあ香織、俺の部屋で何してたんだ?」
「何してたかって、お兄ちゃんを待ってたんだよ」
香織はにっこり笑って言う。うーん、別に自分の部屋に居ても良かったはずだがな。
「……そっか。で、何の用?」
「お父さんとお母さんが居ない間にいっぱい甘えようって思って。――ねえ、ぎゅーってして?」
あー、そんなことだと思った。香織は告白してから、俺と2人きりの時には好意を隠さなくなった。そして、ボディタッチがすごく増えた。……あくまで妹なんだから気にするなって自分に言い聞かせてるけど、やっぱりドキドキしちゃう。でも触ってくるなとか、絶対言えない。普通に甘えてきてほしいし、俺も甘やかしたいから。疎遠になるのは死んでもゴメンだ。
というか、上目遣いの美少女にお願いされて断れる訳がない。そんなもんである。
「分かったよ、ほらおいで」
「えへへ、やった~♡」
俺が手を広げると、香織が俺の足の上に乗り、がっしりと抱きついてきた。もちろん、色んなところが当たる。
「お兄ちゃん、暖かくて、いい匂い……」
香織は俺の首元に顔をうずめ、深く呼吸を繰り返す。その度に囁くように息が吐き出され、はあぁという艶めかしい声が、耳に残る。
しばらくすると、香織が体を起こした。次は膝枕か……と思ったけど。
「お兄ちゃん、キスして」
違った。香織はキスをご所望のようだ。俺の答えはもちろん。
「それはダメだ」
流石にキスはしてあげられない。騙し討ちでされたことを除けば、キスは断固してないし、しない。してしまったら、もうおしまいだと思う。完全に浮気だし、紗奈の想いを踏みにじることになるからな。
「お兄ちゃん、今紗奈さんのこと考えてたよね」
香織はいつもの甘い声で言う。
「ああ、香織とキスしたなんて紗奈が知ったら悲しむから、絶対にしないって考えてたんだよ!」
「……お兄ちゃん。それは違うよ」
そう呟いて、香織は俺を押し倒し馬乗りになった。
「えへへ、紗奈さんは分かんないよ。ここには私たちしかいないんだから、言わなきゃバレない。ぎゅーってしても、キスしても、もっとすごいコトしちゃっても♡……私は、お兄ちゃんのことが好きなの。本当に好きでたまらない、恋人にして欲しい、キスして欲しい……紗奈さんの代わりになりたいけど、それはダメなんだよね。だったら、このお部屋で、お兄ちゃんに愛してもらえるだけで、いいの。2人の邪魔はしないから、ねえ、お願いっ……」
香織はそんなことを言って、俺にしなだれかかってきた。
どうしてこうなってしまうんだ。いつまでも香織を甘やかす俺が悪いのか?香織にとっては、横槍を入れてきた紗奈が悪いのかもしれない。……でも、もう決着をつけなければならない。このまま自分も他人も誤魔化し続けてもいいことは無いんだ。
……俺の、答えは。
「香織……
頼むから、もうそんなこと言わないでくれ。俺は香織のことは大好きだ。でもな、ドキドキしちゃうこともあっても、妹として好きなんだよ。そんな香織に、俺は都合のいい女になんてなって欲しくない。もちろん兄として、そして一人の男としても絶対に嫌だ。香織に告白されたとき、傷つけたくなくて言わなかった言葉があるんだよ」
「お兄、ちゃん」
香織は本当に可愛い。
いつまでも仲良く居たい。
ずっと甘やかしてやりたい。
けどさ。
「ごめんなさい。俺には彼女がいるから付き合えない」
俺にとって香織は、どこまで行っても妹なんだ。
そんな厳しい現実を、ぶつけた。




