8
ガシュラの視線がラヴィへと動く。
にらみつけるその眼は怒りに満ちて「何だ、これは?」と語っていた。
ラヴィは真っ青になり、首をブンブンと横に振った。
知りませんでした!!
ええ、知りませんでしたとも!!
「兄上!!」ともう一度、メルドラ。
「ああ、聞こえている」
ガシュラが苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「僕に任せてください」
「メルドラ」
ガシュラは両腕を組み、歳の離れた弟を見つめた。
「これは遊びではない」
最初の衝撃を乗り越えたガシュラの声は、落ち着きを取り戻していた。
「作戦があります! 兄上の軍はお借りしません!」
これにはガシュラが「ほう」と眼を細める。
その唇に微笑が浮かぶ。
メルドラが使える兵士など、ただの1人も居ない。
それで、どうやって砂賊と戦うというのか?
他の王子たちの沈黙をメルドラは都合良くも、話を続ける承諾と取った。
「傭兵を集めます」
ガシュラの眉が吊り上がった。
確かに宇宙には金で動く兵士がごまんと居る。
それを雇い、砂賊討伐に当てるのは一見、有効と思える。
が。
この惑星の気候風土、地形に精通した王家の兵士たちですら手こずるエズモ族と、外部からやって来た不慣れな傭兵たちでは勝負は戦う前から見えていた。
あたら犠牲者を増やし、金をドブに捨てる結果になるだろう。
そのため、ガシュラはこの策を取らなかったのだ。
そもそも、メルドラが兵力を持つのは好ましくない。
母親と妹を取り返そうなどと、妙な気を起こされては面倒だ。
メルドラの提案を一蹴しようと口を開きかけたガシュラが止まった。
待てよ。
実質、兵力のほとんどは自らが掌握しているとはいえ、各王子には固有の資産がある。
昼行灯のメルドラも当然、財産を持っていた。
いくら病に伏してもアメンドラ3世が存命のうちは、メルドラから無理に取り上げるわけにはいかない。
しかし今回の傭兵雇い入れを利用し、メルドラに資産を使わせるのはどうか?
メルドラがもしもカサンドラたちと合流し、こちらに楯突いたとしても、その影響を抑えられる。
そう遠くなく訪れる自分の治世を磐石にする、ひとつの布石になるのではないか。
もちろん、傭兵の数は反乱が起こらぬように制限せねばならない。
たとえ裏切り、攻撃してきたとしてもこちらの軍で対応できる範疇。
傭兵たちの総数の3割に当たる正規軍と合同編成する。
それでもこちらの軍全体の1割を割いているに過ぎない。
傭兵たちを見張ることも出来て、これならばどう転んでも損はない。
万が一にも砂賊を討ち果たせればそれで良い、傭兵たちが負ければメルドラの責任を問い、全ての力を奪える。
ガシュラは一瞬で、それらを計算し終わった。
「いいだろう」
ガシュラが言った。
「細かい部分は後で詰めよう。見事、砂賊を打ち破って見せろ、メルドラ」
これにはガシュラとメルドラ以外の王子たちが、再び驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
カサンドラが眉間にしわを寄せ、思案顔になる。
「ありがとうございます、兄上!!」
メルドラが満面の笑みで答えた。