7
ガシュラの言葉に王子たちは驚かない。
砂賊の襲撃、特に小都市への攻撃は、もはや珍しくもない。
砂賊は一般市民を巻き込まぬよう、軍の施設のみを狙う。
自分たちの敵は王家、いや正確にはガシュラ一派なのだという意思表示か?
そもそもエズモ族はアメンドラ3世が病に伏す前は、王家と良好な関係を築いていたのである。
ガシュラ一派vsエズモ族。
常に争いの中心にはガシュラ有り。
ラヴィは心の中で「ふふん」と鼻を鳴らす。
問題はシンプルだ。
第1王子ガシュラの野望が、全ての戦いの元凶。
「忌々しいクズ虫どもが!」
ガシュラが声を荒げる。
ここまでの流れは、いつものパターン。
お馴染みである。
結局のところ、敵の細かい陽動に大軍を動かす愚をガシュラは犯さない。
拠点を増やし戦力を保持しつつ、じわじわと版図を広げ、最後に砂賊を追い詰め圧殺する。
その日が来るまでは、この会議冒頭のガシュラの怒り表明は繰り返されるだろう。
ひとしきり、ガシュラがエズモ族への呪いの言葉を吐きまくった後、実質の会議が始まるのだ。
それも大して重要ではない申し渡しばかりに違いない。
あーあ、早く終わんねえかなー。
直立不動で神妙な顔をするラヴィの脳内で、彼女は寝転がり両手で頬杖をつき、両足をバタバタと動かしていた。
「よし」
ガシュラが言った。
次に「始めるか」と続くと、ラヴィは知っている。
ほらね…。
ほらね…?
あれ?
ラヴィは現実へと引き戻された。
何で「始めるか」って言わないの?
円卓に眼をやると、7人の王子のうち、6人の視線が残りの1人に注がれていた。
皆に注視されている王子とは。
メルドラ!?
ラヴィは思わず両眼をこすった。
メルドラが右手を高々と挙げている!?
あれー?
ど、どうしちゃったのかなー?
脇の下が痒くて挙げちゃった!?
体操!?
体操でしょ!?
あくびして右手が自然と伸びちゃった!?
そのままだと意見があると皆に思われるよ!!
下ろして!
今すぐに手を下ろしてー!!
ラヴィはダッシュでメルドラの視線の先へと回り込むと、必死のジェスチャーで右手を下ろすようサインを出した。
メルドラが「うんうん」と頷いている。
「うんうん」じゃなくて!!
下ろして!
み・ぎ・て・を・お・ろ・し・て!
猫スマイルしてんじゃないわよ!!
「何だ…メルドラ」
ガシュラの、いつもよりさらに低い声が響いた。
半分は戸惑い、残りは怒り。
弟の奇行はラヴィの報告で知ってはいたが、まさか会議で発言してくるなどとは思いもしなかった。
「兄上!!」
メルドラは、やたらと元気が良い。
「砂賊討伐を僕にやらせてください!!」
これには6人の王子たちの口がポカンと開いた。
今、何と言った?
猫スマイルの天然王子が砂賊討伐?
いったいどういう風の吹き回しか?