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「兄上」
メルドラがカサンドラに答える。
「お暇ですか?」
お前よりは忙しいと思うぞ。
それにカサンドラ様の「元気か?」って質問はスルーかよ。
「それがいろいろとね」
カサンドラが肩をすくめる。
イケメンスマイルが半端ない。
「わあ」
こちらは猫スマイルが半端ない。
「何でも相談してください」
お前に相談してもな。
「ありがとう」
礼を言ったカサンドラが、そこで何かを思い出したように「あ」と言った。
「そうそう昨日、メリステア様に逢ったよ」
カサンドラはメルドラの母と妹にまで気を遣っているのか?
待てよ。
ラヴィは内心、首を傾げる。
アメンドラ3世の第3夫人は丁度、カサンドラと同年代。
ターコートの砂漠に満月の夜のみ咲く、美しい華に例えられる程の美貌の持ち主。
まさか…。
父親の夫人をその死後、娶った者は歴史上、珍しくはない。
はあ、私は第3夫人に降格か。
ラヴィが悲しみの涙を堪える間、メルドラは母と妹の様子を尋ね、カサンドラはそれに答えた。
笑顔を浮かべるカサンドラの視線がメルドラの後ろで控えるラヴィに移る。
「ラヴィ」
なーに、あなた?
「メルドラをよろしく頼むよ」
現実に戻ったラヴィはカサンドラの赤い瞳に、彼の本音を探した。
腹違いの兄弟に対する本当の愛情か、それとも万にひとつも長兄への反撃の機会が訪れたなら、メルドラを頭数として利用するつもりか?
ラヴィにはカサンドラの真意は読み取れない。
ラヴィがガシュラがメルドラに付けた鈴だと、カサンドラが知らぬわけはない。
皮肉なのか?
それとも「かわいい弟に危害を加えるなよ」という脅しか?
こんなイケメンになら言葉責めされてみたいかも。
刹那の思考の後、ラヴィは深々とカサンドラに頭を垂れた。
「御意にございます」
カサンドラは満足げに頷き、弟へと視線を戻した。
メルドラの細い肩に右手を置いて「では、席に着こうか」と言った。
会議の間の中央円卓に4人の王子が座る。
ガシュラ一派は、まだ姿を見せない。
こういうところは、もはや王様気取りだな。
メルドラの後方、円卓よりやや離れた位置で控えるラヴィは、そう思った。
その直後、ガシュラを先頭に第2、第3王子たちが護衛兵に囲まれ、颯爽と現れた。
他の皆が来るまで隠れてたのじゃないかしら?
ラヴィが勘ぐる。
ガシュラは自分の席にドカッと腰を下ろした。
先に座る4人をゆっくりと見回す。
見られている王子たちは緊張の面持ちだが、メルドラだけはヘラヘラしていた。
それに視線を止めたガシュラが「ふん」と鼻を鳴らす。
「砂賊が」
ガシュラが口を開いた。
「砂賊」とはガシュラ一派がエズモ族につけた名称だ。
自分たちに楯突く者は「賊」というレッテルを貼り付ける。
他の王子たちが「砂賊」を「エズモ族」と呼ぼうものなら、ガシュラの太く濃い眉は、すぐさま吊り上がるのだった。
「また現れた」