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ラヴィは表情を引き締めた。
「メルドラ様」
「何ー?」
「そろそろ会議のお時間です。お兄様たちより遅れては一大事。早めに参りませんと」
「あー」
メルドラが口を開いて止まる。
「………」
「それなんだけど」
メルドラが窓から離れ、ラヴィの横を通り過ぎる。
それなんだけど…何だよ!?
言わねえのかよ!?
これも日常茶飯事。
メルドラは廊下に出て、皇子たちが集まる会議の間に歩きだした。
軽やかな足取り。
もう少しでスキップだ。
気楽なもんだな、おい!
ラヴィがメルドラの後に続く。
左右に揺れるメルドラの後頭部を見ていると、こちらの頭まで揺れてくる。
「いかん、いかん」と首を振り、ラヴィはこの後、開かれる七王子の会議へと思いを馳せた。
会議といっても実質はガシュラともう2人の王子たちの意向を発表する場に過ぎない。
今、ガシュラの最大の関心事は「シィムの水」とレアメタルだ。
どちらもターコートの地下資源である。
「シィムの水」とはターコートの砂漠に希に発見される地下水脈より湧き出すエメラルド色の水。
太古の地層の成分を取り込んだこの水は、時間制限こそあるものの人間の運動能力を飛躍的に強化する効果がある。
ただし、その代償として使用した者は中毒者となり、定期的に「シィムの水」を摂取せねば弱り始め、数ヶ月後には死ぬ。
ガシュラはこの水脈を手に入れ、強力な軍隊を編成、ないしは「シィムの水」の成分を研究、分析し新たな人体強化薬を生産、高値で売り捌く狙いか?
ラヴィは、そう推察する。
レアメタルはもっとシンプルな形で王家の資金を潤し、軍の装備を充実させるだろう。
ガシュラは、その2つをすでに手にしているのか?
答えはNOだ。
偶然にも両方が、砂漠に住む最も古い部族「エズモ」の元にある。
彼らは少数だが、自分たちを王族と対等と思っている。
恐れを知らず、武力による脅しにはけして屈しない。
老若男女問わず、全員が戦士。
10倍の敵と対峙しようとも、互角に戦い勝利する。
部族の中で特に優れた者には「シィムの水」の使用が許可され、時には戦闘前、それを服用した。
そうなると王家側の犠牲者は、さらにはね上がる。
もちろん彼らは中毒症であり、この星から離れられない。
が、そもそもエズモ族は砂漠から出ようという発想を持っていないのだ。
生存のための最低限のテクノロジーだけを使い、出来るだけ自然のままに生きる。
それが彼らのポリシー。
地下に縦横無尽に張り巡らされた空洞を自由に移動し、エズモ族はガシュラたちの軍を翻弄した。
お陰で「シィムの水」もレアメタルも、王族の手には入らない。
これにガシュラは怒髪天を突いた。