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突然、金属アームを破壊され呆然とするサイボーグたちは、レラへの反応が遅れた。
高熱で真っ赤になったレラの両拳が、その一瞬で5体のサイボーグの頭を叩き壊し、胴体をぶち抜く。
仁王立つレラの足元に無力化されたバイパーサイボーグたちが転がった。
「口ほどにもないね」
レラが言った。
用心棒たちの無惨な末路を見たガシュラと2人の王子が、そっと会議の間から脱け出そうとするが、トラコのアサルトライフルの銃口が突きつけられる。
「大人しいしとき」
トラコが警告すると、3人は両手を挙げ動きを止めた。
エルフィンもハンドガンをガシュラに向ける。
「さあ、これで勝負あったね。外で戦ってる兵士を止めて。こっちも攻撃を中止するから」
ガシュラは唇を噛み、エルフィンをにらみつけた。
が、ハンドガンをさらに近づけられると、円卓上のホログラムで将軍に呼びかけた。
将軍の顔が映し出される。
戦闘中止の命令を受けた将軍は、すぐさまそれに従った。
エルフィンも通信機で仲間を停戦させる。
「あんたの天下も終わったね」
エルフィンがガシュラに言った。
「お…おのれ…」
ガシュラの顔が怒りで歪む。
「キサマら、どうやって…」
「あー」
エルフィンは首を傾げた。
3王子の見張りをトラコに任せて、床に寝転がっている人々に近づく。
ラヴィが恐怖で「ヒッ」と声を上げる。
恐ろしい砂賊に、問答無用で撃ち殺されるのではないかと思ったからだ。
エルフィンはラヴィを通り過ぎ、メルドラの側に立った。
銃を持たない左手を差し伸べ、メルドラの手を掴む。
メルドラの身体を引っ張り、立ち上がらせた。
「ここから先は、私のハニーに説明してもらうよ」
エルフィンが言った。
メルドラとエルフィン以外の一同は、ポカンとなった。
ラヴィも、ひどく驚いている。
ハニー…って…何だ?
ターコートの第7王子と砂賊の女が…ハニーとは?
驚く人々の前で、エルフィンはメルドラに抱きつき、濃厚な口づけを交わした。
ようやく離れたエルフィンに「キスが長いよ」とメルドラが笑う。
「そう?」
エルフィンは不満げだ。
「本当に久しぶりだから、ちょっと燃えちゃった。これでも遠慮してるのよ」
2人が「「ふふふ」」と笑い合う。
「な…」
ガシュラが何とか、口を開いた。
「何だ、これは…ど、どういうことだ?」
「兄上」
メルドラが呼びかけた。
まるで幼児に言い聞かせるような口調だ。
「あなたはやり過ぎたのです。父上のような善政を行っていただけたなら、私もここまではしなかった」
「…な…」
「民への重税、さらにエズモ族から『シィムの水』を奪って強化薬を精製、バイパーと結託しようなどとは…さすがに見過ごせません」
「メルドラ!」
カサンドラが立ち上がり、口を挟んだ。
「それは本当か!?」
「はい。残念ながら」
メルドラが頷く。
「この王宮内にまでバイパーの手先が入り込んでいたのが、何よりの証拠」
「まさか…そこまで…兄上っ!!」
カサンドラがガシュラを咎める。
しかし、ガシュラはそれどころではなかった。
まるで視線だけで弟を殺そうとするかの如き鬼の形相で、メルドラをにらんでいる。
「まさか…お前が? 否…信じられん…」