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いつの間にか、床を蛇のようにうねる無数の金属アームの先は。
ガシュラの衛兵5人の身体に繋がっている。
「あの人たち、バイパーのサイボーグだよ!」
敵をスキャンしたモッキュが叫ぶ。
(ここにもバイパーを配置してたのか!)
ジローが唇を噛んだ。
メリステアとチャミを軟禁していた場所にも、バイパーは居た。
ガシュラと結託しているのだから、もっと警戒するべきだった。
金属製の無数の細いアームは、捕らえた3人をグイグイ締めつけてくる。
もはや正体を隠さず、5人のバイパーサイボーグは前へと進み出た。
ターコート衛兵の軽装鎧は破れ、金属のボディが露になっている。
「ケケケ!」
サイボーグの1人が大笑いした。
「ジローを捕まえた! これで俺たちは幹部に昇格だ!」
「変身する女はデ・レラに違いない! こいつも高額賞金だ!」
もう1人が興奮する。
トラコがアサルトライフルをサイボーグたちに撃ち込む。
が、その装甲にはダメージを与えられない。
「アカン!!」
トラコが焦る。
「捕まえるか? 殺すか?」とサイボーグ。
「そうだなー」
もう1人が顎に手を当てて悩む。
「おい」
金属アームで、今や空中に縛り上げられたレラがサイボーグたちに言った。
その声は静かで、落ち着いている。
「これで、あたしを捕まえたつもり?」
言い終わると同時にレラの全身が灼熱の朱に染まり、まるで紙切れのように金属アームをちぎり飛ばした。
「なっ!?」
レラの液体金属ボディに隠された機能。
エネルギーを激しく消費するため短時間しか使えないが、鋼鉄をも溶かす高温か、瞬く間に凍りつかせる低温か、そのどちらかを自らの身体に付与できるのだ。
これこそがバイパー組織内で恐るべき勢いで株を上げていたマンマ・ハッハ一味をたった1人で皆殺しにしたデ・レラの切り札。
驚き怯んだサイボーグたちを尻目に、床に下りたレラが左右の蹴りでジローとエルフィンを拘束しているアームを破壊した。
レラがジローを見て、ニヤッと笑う。
「あたしが突っ込むから、援護して」
すぐさま踵を返し、レラがサイボーグたちへと走る。
レラに指図されたジローは一瞬、口をへの字に曲げた。
その口が開いて出た言葉は。
「モッキュ!!」
「オッケー!!」
まるでジローの呼びかけを予想していたように、モッキュの手からレーザーガンが投げられた。
背中のバックパックから、モッキュが取り出した物だ。
空中を飛ぶレーザーガンをジローの右手が掴む。
サイボーグに向かって走るレラに、金属アームの生き残りが襲ってきた。
大波の如く、レラの前方を塞ぐ。
これをレラの能力で溶かせば、その後の戦闘のエネルギーは尽きてしまう。
そのとき、ジローの手首のブレスレットから増強剤が注入された。
ジローの周りの風景、全ての動きが徐々にゆっくりとなっていく。
ハイブリッドソルジャー、ジローの特殊な遺伝子による効果で、すさまじいハイスピードの知覚と動きを短時間だけ得られる能力「ブーストON」。
ジローは正確無比な狙いで、次々とレーザーガンの引き金を引いた。
次第に周囲のスピードが元に戻っていく。
「ブーストON」が終わった。
レラの前を塞いでいたバイパーサイボーグの金属触手が、瞬時に破壊される。
レラが猛スピードでサイボーグたちの中へと飛び込んだ。




