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「メルドラを拘束しろ!」
ガシュラが命令した。
広間に居る20人ほどの兵士のうち、3人がメルドラへと迫った。
メルドラは事態が理解できないのか?
またも謎の猫スマイル。
ラヴィは呆れた。
その一方で、一抹の寂しさも感じた。
いろいろ苦労させられた3年間だった。
が、何だかんだで、メルドラと居る時はガシュラと居る時の100憶倍は楽しかった。
はぁ…。
これで、猫王子の鈴の役目も終わりか…。
これからは、ガシュラのお茶汲み係としての人生が始まる。
どうか、エロいことだけはされませんように。
3人の兵士の手がメルドラの細い腕を掴もうと伸びた、その瞬間。
3人の兵士の腕に銃声と共に各々、1発の弾丸が撃ち込まれた。
呆気に取られた一同が、銃声の出所を見る。
いつの間にか、入口に立つ2人の衛兵を倒した6人組が、そこに立っていた。
先頭にはターコート王宮の兵士。
その右にエルフィン。
左にはジロー。
この3人の右手に構えた銃から発射された弾丸が、メルドラを捕まえようとした3人の兵士の腕に当たったのだ。
3人の後ろにはアサルトライフルを持つトラコ、ハンドガンを今ひとつ慣れない様子で構えるミア、そして手足を大の字に出したモッキュがキリッとした顔で立っている。
先頭の兵士の身体がアメ細工のようにグニャリと変形し、美しいプロポーションの女の姿になった。
そのブロンド美女が言った。
「パーティーには、間に合ったみたいね」
レラが言い終わると同時に、会議の間は騒然となった。
衛兵たちが一斉に銃を抜く。
が、彼らの銃が火を吹く前に、レラとジローの正確な射撃が撃ち倒す。
2人の銃弾は全て、相手を殺さない箇所を撃ち抜いていた。
騒ぎの中、ガシュラたち3王子は5人の兵士に守られ、襲撃者の居る反対側の出口へと向かった。
「トラコ!!」
レラが大声で指示する。
「ほい、きた!!」
トラコのアサルトライフルが連射され、ガシュラたちの脱出を牽制する。
釘付けにされたガシュラたちは椅子の陰に隠れた。
メルドラとカサンドラたち、ラヴィや従者たちも銃撃を避けるため、調度品の陰に隠れたり、床に這いつくばった。
ラヴィはパニクっていた。
3年間、面倒を見てきたクセが染みついているからか、気がつくとメルドラの側に駆け寄り、思わず抱きしめて庇ってしまう。
メルドラの頭を床に下げさせ、2人で体勢を低くした。
まったく、どうなってんのよ!?
何でこんな所に敵が居るの!?
お茶汲みの未来どころか、撃ち殺される運命なの!?
泣きそうになったラヴィの肩をポンポンと叩く手。
メルドラだった。
「心配するなよ」と言わんばかりの笑顔を向けてくる。
おい、余裕だな!!
こんなときまで天然かよ!!
ラヴィが憤っている間にも、銃撃戦は続いた。
襲撃者たちの攻撃、特にジローとレラの射撃はすさまじい精度だった。
ほんの僅かな時間で、ガシュラ王子を守る5人以外の衛兵を全員、戦闘不能に追い込んだのだ。
「何をしている! 俺を守れ!! お前たちは、そのために来たのだろうが!!」
ガシュラが半狂乱に怒鳴る。
すると。
突如、床下から跳ね上がった無数の金属製の細長い触手状アームが、エルフィンとジロー、レラの銃をその手から弾き飛ばした。
驚く3人の身体にアームが巻きつき、あっという間に自由を奪う。
「何だ、これ!?」
ジローが怒鳴った。




