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「砂賊が傭兵を雇えるわけがない! ターコートへの宇宙船の出入りは、全て把握しているはずだぞ!」
「そ…それが…」
「何だっ!?」
「敵の傭兵は我々が雇い入れた連中のようでして…」
ガシュラの口が、ポカンと開いた。
一瞬、怒りを忘れている。
「どういうことだ…?」
「メ、メルドラ王子の傭兵たちです」
ガシュラがメルドラをにらみつける。
メルドラはそれに全く気づいていないようで、空中にフラフラと視線を漂わせている。
ガシュラが将軍に顔を戻した。
「メルドラの軍は砂賊に全滅させられたはずだ!」
「はっ。しかし、襲撃された場所では傭兵たちの死体は僅しか確認されておらず…」
「じゃあ、何か!?」
ガシュラが円卓をバンバンと叩いた。
「砂賊はメルドラの集めた傭兵を襲って捕らえ、今度はそいつらをスカウトして我々に反撃してきたというのか!?」
「はっ、そうであります!」
「メルドラ!!」
ガシュラが怒鳴る。
天井を見ていたメルドラがビクッとなった。
寝起きのような顔で、ガシュラを見つめる。
「お前の失態だぞ!!」
「うーん」
メルドラが首を傾げた。
「兄上、ごめんなさい!!」
メルドラの後方で成り行きを見守っているラヴィはハラハラした。
意味分かって謝ってんの!?
「まったく…」
ガシュラが苦虫を噛み潰す。
「兄上」
カサンドラが口を挟んだ。
ラヴィがホッとする。
カサンドラ様、否、私の未来の夫!!
お願いします!!
「傭兵たちの総数は砂賊と合わせても、こちらの3割程度」
円卓上の戦場ホログラムを指す。
「現在、敵の倍の兵力で応戦しています。幸い城壁の外側ですし、さして市街地に被害も受けず、このまま制圧できるかと」
「一兵たりとも逃がすな! 皆殺しにしろ!!」
ガシュラが将軍に怒鳴った。
「はっ!」
敬礼した将軍が、会議の間を出ていく。
副官に任せていた指揮を自ら執るためだ。
「メルドラ」
ガシュラが再び呼んだ。
ラヴィがメルドラを見つめる。
出たよ、猫スマイル!!
そんな顔してる場合じゃないよ!!
「今回の騒ぎの責任を取れ。お前の王子としての発言権を一時的に停止する」
「兄上!!」
メルドラよりも早く、カサンドラが声を上げた。
「それはあんまりです!!」
「王都が攻撃されているのだぞ!!」
ガシュラが吼える。
「さらに謹慎を命ずる!」
「いかな兄上とて、そこまでの権限はありませんぞ!!」
カサンドラの顔は、珍しく激しい怒りを浮かべていた。
「父上も絶対にお許しにならないはず!!」
「俺に逆らうつもりか、カサンドラ!!」
ターコートの第1王子と第4王子は激しくにらみ合った。
「現実を見ろ、カサンドラ」
ガシュラの声が低くなる。
「お前は俺には逆らえん。ここに居る兵士は全て、俺の部下だからな」
ガシュラの言葉にカサンドラが顔をしかめる。
「ふん!」
ガシュラが鼻で笑った。
「そもそもお前には、俺と戦う気概もあるまい!! お前が俺に対抗できるのは」
ガシュラの両眼が狂暴にぎらつく。
「俺がそれを許しているからに過ぎん」
ラヴィの身体が震えた。
言った。
ついに言いやがった。
ガシュラはこれを機会に、とうとう本性を現すつもりだ。
父王さえ怖れず、己の覇道を突き進むと宣言したに等しい。
もはやガシュラと第2、第3王子のみが、ターコートを支配するのだ。
メルドラのバカな行動が、この結果を招いた。
末弟の天然王子が自分の首どころか、カサンドラ派の息の根まで止めたのだ。




