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すったもんだの後、その時間を取り戻すため、一同は慌てて出発した。
首都の城壁外の軍事施設を攻撃するエズモ族と傭兵たちから離れ、地下洞窟から市街地へ、そして王宮の地下へと侵入する。
曲がりくねった石造りの通路を進んだ。
チャミ王女から地下通路の情報を得たエルフィンは、迷うことなく皆を先導する。
一同は王宮の中庭に立つ、庭師小屋の地下室へ出た。
攻撃の騒ぎで誰も居ないようだ。
エルフィンが小型のレーダーを取り出し、覗き込む。
「それで目的の3王子の居場所が分かるのか?」
ジローが訊いた。
「ええ」
エルフィンが頷く。
ジローは首を傾げた。
3王子の誰かに発信器を取り付けているのか?
本人たちに気づかれずに?
「行きましょう」
エルフィンが小屋を出ていく。
残りの全員が続いた。
闇夜の庭を横切り、レーダーが示す王子たちが居る建物へ侵入する。
広々とした大理石の廊下を物陰に隠れつつ進む。
前方に、2人の見張りの兵士が現れた。
こちら側を向き、一切、その場を動く素振りはない。
廊下の陰に隠れたエルフィンが、小声でジローたちに言った。
「この先に進まなきゃ」
ジローが大口径ハンドガンを取り出し、構える。
どうせ、どこかの時点で強行突破になると踏んでいた。
1度、銃撃沙汰を起こせば、後戻りは出来ない。
3王子の身柄を確保するまでのスピード勝負になる。
前に踏み出しかけたジローの肩をレラの右手が引き止めた。
「あたしに任せて」
レラがそう言うと、その身がアメ細工のように溶け、次の瞬間には兵士の軽装鎧を着た青年の姿へと変化した。
ジローにウインクして、廊下に出ていく。
2人の見張りの兵士は何の疑いもなく、レラを通した。
刹那。
レラが兵士たちの背後から飛びかかり、開いた両脚が同時に2人の後頭部を強かに打った。
兵士たちが、声も無く倒れる。
レラの姿が元のブロンド美女に戻った。
「ね。あたしを連れてきて正解だったでしょ?」
レラが得意げに言った。
ジローが「ふん」と鼻を鳴らす。
全員で気絶した兵士を運び、空き部屋の戸棚に隠した。
そして再び、先に進む。
見張りに出遭っては、レラの変身で無難に切り抜けるのを2回続けたところで、エルフィンが「王子たちが近い」とレーダーを見て言った。
廊下の先に衛兵が4人。
大きな部屋の入口横を固めている。
「あの部屋の中に居るわ」
エルフィンの言葉に、一同が頷く。
モッキュ以外の全員が銃を構えた。
「一気に突入して、3王子を確保する!」
エルフィンが左手を振った。
「いったい、どういうことだ!?」
ガシュラが会議の間の円卓を強く叩き、怒鳴った。
他の6人の王子も円卓を囲み、座っている。
それぞれの王子の後方、広い部屋の壁際辺りに従者と護衛の兵士たち。
深夜突然、首都の城壁外に出現した敵軍の攻撃を受け、緊急に開かれた会議であった。
「何故、砂賊にこんな兵力がある!?」
ガシュラの激昂に皆が怯み、会議の間は静かになった。
「説明しろ!!」
ガシュラの鋭い眼光は、軍の最高指揮官である将軍へと向けられた。
将軍が直立不動となって、口を開く。
「砂賊の中に傭兵どもが確認され…いえ、敵の大半は傭兵どもでありまして…」
「傭兵だと!?」
ガシュラの怒りが増幅する。




