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「遅くしたり早くしたり、微妙な調節が出来るの」
「へー」
モッキュの瞳が輝く。
「私たちの部族は曲や調子を変えて、聞いた相手に意思を伝えられるのよ」
「ええ!? 笛でお話が出来るの!?」
モッキュが驚く。
「ええ。どんな会話もね。普通に話すのといっしょよ」
「わー、すごいなー。ね、ジロー!」
感心するモッキュの言葉に、ジローはさほど興味は無さげに頷いた。
「エルフィン」
ジローが呼んだ。
「何?」
「明日の潜入」
「ええ」
「攻撃が始まったら、まずは俺たちは地下の洞窟から首都の市街地へ潜り込む」
「そうよ」
「そして王宮の中へ」
「そう」
「どうやって入る? この前みたいにスパイが手引きしてくれるのか?」
「いいえ」
エルフィンが首を横に振った。
ジローが両腕を組み、眉を吊り上げる。
「心配しないで」
エルフィンが微笑む。
「市街地から王宮の地下通路に入れるの。この前、助けたチャミ王女が道順を教えてくれたわ」
ジローはクォールで救出した少女を思い出した。
王宮の地下通路を把握するために、あの母娘を助けたのか?
「戦闘が始まれば、3人の王子は必ず1ヶ所に集まる。そしてその場所が、私は100%分かるの」
「100%?」
「そう。絶対に分かる。もちろん、オカルトじゃなくね」
ジローは納得いかない顔だ。
「乗りかかった船でしょ?」
「そっちが言うのは、おかしいだろ!」
「私を信用して」
あっけらかんと言うエルフィンを疑いの眼差しで見るジロー。
「うん! 信じるよ!」
モッキュの元気な声。
ジローがため息をつき、肩をすくめた。
「しょうがないなー」とジロー。
「ガシュラたちには護衛兵とバイパーの手先がくっついてる可能性もあるから、そっちはお願いするよ」
エルフィンが言った。
「ジローはすっごく、すっごく強いから大丈夫だよ!」
モッキュが自分の小さな胸をポンッと叩く。
「お、おう」
そう言ったジローの顔が赤くなった。
エズモ族と傭兵たちの合同部隊の攻撃が開始された。
作戦の要である潜入チームの面々も、最適な装備に身を固め、集合した。
「1人、増えてないか?」
ジローが不機嫌そうに言った。
「え? 誰やろ?」とトラコ。
辺りをキョロキョロと見回す。
「お前だよ!!」
「ええー!? わ、私!?」
トラコが驚く。
エルフィンとモッキュ、レラとミアが2人を見ている。
「何で、お前がメンバーに入ってる?」
「私『ジロモキュ』の大ファンです!!」
「そんな理由!?」
「あはは」
トラコが頭をかく。
「ミアとミアのお姉さんが入った時にいっしょに居たから…ノリで?」
「ノリで入るな!!」
「ジローさん!!」
ミアが助け船を出した。
「トラコは私の『マシュキン』仲間なんです!!」
「…『マシュキン』? 何それ?」
「「アニメです!!」」
ミアとトラコが同時に言った。
「か、関係なくね!?」
「トラコは『マシュキン』枠なんだよね」とミア。
「そやな。『マシュキン』枠やな」
「なるほど『マシュキン』枠かー…って、ならねーよ!!」
怒るジローの肩にレラが右手を置いた。
「トラコの腕前は、あたしが保証する」
「あのなー」
ジローが言い返すとエルフィンが「分かった。トラコもメンバーに入れよう」と宣言した。
ジローが腕を組んで、そっぽを向く。
「まあまあ」とモッキュがなだめた。




