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「待てーい!!」
ジローが怒鳴る。
「ド素人を連れていくわけないだろ!!」
これにはレラがカチンときた。
ジローの前に立つ。
にらみつけた。
「何だよ?」
ジローの瞳がギラッと光る。
「あたしが素人だって?」
「ああ」
「あんたよりは、ずっと役に立つよ」
瞳が怒りに燃えている。
「何だと!?」
ジローが一歩前に出かけたところで、モッキュが「わー!!」と両手を挙げた。
ジローとレラの間へ飛び込む。
「ケンカしないで!!」
モッキュがそう言って、2人にウインクする。
「「かわいい!!」」
ジローとレラの両眼がハートになる。
ジローはそのままだが、レラが首を振って元に戻った。
「あたしを連れていく方がいいよ」
言い終わると同時に、レラの身体がアメ細工のように溶け、全く違う容姿に変化した。
東洋系の顔立ちにロングの黒髪をサイドで、ひと括り。
先刻よりも、やや痩せて筋肉質なプロポーション。
着ていたコンバットスーツの色は紫に変わっている。
これには、その場のミア以外の全員が驚いた。
「変装はお手のものさ」
「あー!!」
ジローが大声を出した。
急に記憶が甦ってきたのだ。
かつて、バイパーの構成員ラスプーラと偶然にショッピングモールで出くわした事件。
その際、ラスプーラとの戦闘中に、おかしな動きをしていた謎の女が居た。
結局、最後はその女が恐るべき格闘術でラスプーラを殺したのだが…。
「ラスプーラを倒した女…お前じゃないだろな…」
レラがギクッとなる。
ジローから眼を逸らした。
「な、何のことよ…」
ジローがレラの視線の先に移動する。
ジーッと見つめる。
「それにお前、ドクターメフィストのラボに居た女と雰囲気が…言葉で言うの難しいけど、何だか似てるな…」
「は、はぁ!?」
メフィストの名を聞いて、レラの様子が誰の眼にもおかしくなった。
ジローから顔をそむけ、声には激しい動揺。
「メ、メフィスト!? 誰ー? し、知らないねー、そんな男!!」
ジローの眼が細まる。
「ほぉー。俺はひと言もメフィストが男って言ってないぞ」
レラの顔が焦りまくる。
「えーと。そ、それはー! か、勘!? あたし、勘は良いんだよねー」
しどろもどろだ。
「まあ、ドクターに直接聞けば、すぐに分かる」
ジローがブレスレットの通信機を操作しようとする。
その瞬間、レラがジローに飛びかかった。
「それはやめろーっ!!」
レラの絶叫。
モッキュとミアは顔を見合せ、全く同じタイミングで肩をすくめた。
拠点の洞窟入口から、やや離れた砂丘でエルフィンは1人で座っていた。
頭上には、優しい光を地上に投げかけるターコートの月。
明日の夜には、ガシュラたち3人の王子を捕らえる作戦が始まっているだろう。
エルフィンは懐から横笛を取り出し、口に当てた。
ゆっくりとした笛の音が鳴りだす。
美しい曲だった。
1曲が終わり、今度は違うメロディを奏で始める。
楽しげな曲。
2曲目も終わったところで、エルフィンは背後に近づいてくる気配に気づいた。
振り向く。
ジローとモッキュだ。
「素敵な曲だね」
モッキュがニコッとして言った。
ジローは相変わらずの仏頂面だ。
「ええ。昔から部族に伝わる曲よ」
エルフィンも笑顔になる。
「それに、これはいろんなアレンジが効くの」
「アレンジ?」
モッキュが首を傾げる。