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広さはあるが、他の王子たちの部屋と比べれば、つましいものだ。
宮殿の華やかな庭を見渡せる大窓の出っ張りに腰かけた少年が、こちらをハッと見た。
いやいや、今さっき会話したでしょーが。
何故、驚く?
身長はラヴィより、ほんの少し低い。
ターコート人は皆、褐色の肌色だが、メルドラは白い。
胸元までの長髪も白。
ラヴィの髪のように染めているわけではない。
生まれつきだ。
彼の母や妹は褐色の肌、赤い髪を持っている。
ふにゃふにゃ思考の昼行灯王子は、ガシュラたち上の兄3人に何度も「赤く染めよ」と言われても、従わなかった。
すぐに忘れるのか、そこだけは譲れぬポリシーなのか?
兄たちへの反抗?
いや、そんなものはこの少年には無い。
ラヴィは思う。
こちらを見つめるクリッとした赤い瞳。
くいっと上がった口の両端。
かわいらしい鼻。
左右3本ずつヒゲを付ければ、猫そのものじゃないか。
「砂漠の猫」とは、言い得て妙だな。
ラヴィと眼が合ったメルドラの口が開いた。
真っ赤な口の中が、一瞬覗く。
「ニャーオ」
メルドラが言った。
否、鳴いた?
自分の心の中を見透かされた気がして、ラヴィは戸惑った。
偶然だ。
他者の心を読むような鋭さは、この王子にはない。
メルドラが窓の外を向いた。
王族が着る、高価で薄く美しい衣服が穏やかな風でたなびく。
外からは笛の音がする。
ターコートの民族楽器レーベの音色。
珍しくはない。
楽士も庶民もレーベを吹く者は多い。
しかし。
この曲は聞いたことがない。
奏者のオリジナルだろうか?
メルドラはその音色に耳を傾け、うっとりとなっている。
肌と髪色と違い、そこだけは真っ赤なメルドラの瞳が嬉しそうに輝く。
ラヴィは一礼してから室内へと入った。
華奢な王子を見つめる。
顔は悪くない。
美男子と言えるだろう。
ガシュラよりは、ずっと好みだ。
自分よりも身分が下の者を人とも思わず、さらに女を見下すガシュラに性欲を処理する物扱いされるよりは、成長したこの少年との情事がましだろうか?
ラヴィは妄想する。
今なら3年前、ガシュラに命じられた「身体を使え」という選択肢はあり得る?
私がリードして無垢な少年とネットリと…。
ゆっくりと首を横に振った。
そこまでするメリットがない。
メルドラに近づき過ぎれば、結局は最後にガシュラに殺される。
今の距離感で、猫に付けられた鈴としての役目を果たすのが良い。
私は何やかや理由をつけて、欲望を満たしたいだけかもしれない。
欲求不満かしら?
気づけばメルドラの視線が、こちらに向いている。
大きな赤い瞳。
「ニャーオ」
フフ。
かわいくて、間抜けな猫ちゃん。
いつかは兄に食い殺される哀れな猫ちゃんよ。