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ガシュラが、ゆっくりと口を開いた。
「メルドラは今回の責任を取らねばならん。折を見て、王宮から遠ざける。母親と妹の件で騒がれても面倒だからな」
てめー…。
「メルドラを追い出すまで、しっかりと見張れ」
そこでガシュラは、ふと気づいたようにニヤッと笑った。
「そのときはお前は王宮に残してやろう。俺のお茶汲みにでもしてやる」
地獄に落ちやがれ!!
レラとミア、トラコは砂賊の拠点である洞窟で大勢の傭兵たちの中に居た。
砂賊によって武装解除されたレラたちは(と言ってもレラは液体金属ボディ内にハンドガンを隠し持っていたが)、他の傭兵たちとトラックに乗せられ、ここにやって来た。
そして砂賊たちの説明で王家の裏切りを知り、倍額の報酬で寝返らないかと勧誘された。
雇い主の裏切りは正規兵たちに攻撃されたレラたちからすれば、すんなり納得できる。
相談の末、砂賊たちに味方すると決めたレラたちは武器を返却され、今から作戦のブリーフィングに参加するところだった。
集まった傭兵たちの人数から推測すると、約9割が砂賊に与すると決めたようだ。
あわや殺されかけた恨みか、ガシュラの圧政に対する義憤か、それとも口約束とはいえ高額の報酬への欲か?
とにかく作戦参加を選択した荒くれ者たちは、ひしめき合って前方に映し出された巨大なホログラム映像を見つめている。
一番前の壇上に1人の女が立った。
女の顔がアップでホログラムに映し出される。
エルフィンだった。
右手の拡声器を口に当てた。
「これから作戦概要を説明する!」
エルフィンが傭兵たちに呼びかける。
「君たち傭兵は一丸となって、首都に攻勢をかけてもらう。私たちの先導で地下洞から攻撃地点付近まで進軍する。首都の城壁周辺の軍事施設に対して、充分な奇襲効果が発揮できるはずだ!」
傭兵たちが、ざわついた。
「ターコート王家の兵は俺たちの何倍も居るぞ!」
傭兵の1人が怒鳴った。
「そうだ、そうだ!」と同調する声。
「最初はいいが、そのうち反撃されて負けるじゃねぇか!」
「俺たちは死にたくないぞ!」
「もっとましな作戦を考えろ!」
洞窟内が騒然となる。
その様子をエルフィンは涼しい顔で、端から端まで眺めた。
大きく息を吸い込む。
拡声器に口を当てた。
「てめえら、黙りやがれっ!!」
すさまじい大声。
騒いでいた傭兵たちが、一瞬で静まり返った。
「最後まで聞け、このタコども!!」
エルフィンが怒鳴る。
「君たちが攻撃を開始すると同時に、こちらの潜入チームが王宮内に侵入する! そして王家の王子3人の身柄を押さえる! その時点で、この戦いは我々の勝利で終了する!」
再び傭兵たちが、ざわつく。
「そのチームが確実に王子たちを拘束できるのか!?」
「警備は厳重だぞ!」
「王子たちの居場所が正確に分かるのか!?」
またも騒ぎだす者たちをエルフィンが左手を高々と挙げて黙らせた。
静寂が戻ってくる。
「上がってきて」
エルフィンが壇上に誰かを手招きした。
エルフィンの側に、2人の人物が立つ。
ホログラムに大きく映し出されたその2人を見て、レラとミアが同時に「「あ!!」」と声を上げる。
「潜入チームのメンバー『ジロモキュ』だ!!」
エルフィンが声高らかに宣言した。