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レラはすぐにミアの元へ戻った。
ミアはトラコに手を借り、立ち上がっていた。
「ミア! 大丈夫!」
レラの言葉でミアが振り返る。
「う、うん」
その表情は不安げだ。
すぐに足元で倒れているボロ布の傭兵に視線を移す。
「でも、この人が…」
レラの視線も傭兵に向く。
ボロ布に手をかけ、引き剥がす。
金属丸出しの機械ボディが現れた。
「わ! サイボーグ?」
トラコが驚く。
確かにショックガンによって行動不能に陥っているが…。
「これは…」
レラが機械の傭兵の身体を調べる。
「アンドロイドね」
「「アンドロイド!?」」
ミアとトラコが同時に驚いた。
「持ち主が遠隔操作するタイプか…」
そこまで言ったレラがハッとなった。
アンドロイドの頭に顔を寄せる。
「ちょっと! 聞こえてるの!?」
アンドロイドがぎこちなく動き、レラの顔を無機質なカメラレンズの単眼で見つめた。
アンドロイドから雑音のような甲高い音が洩れ出てくる。
雑音が次第に男の声に変化していく。
「聞こえてるよ! アーアー。こっちの声はどうだい?」
レラの両眼が細まり、明らかに不機嫌になった。
「あ!」
ミアが口元を押さえる。
「この声、メフィストさんじゃない!?」
「レラ、聞こえてる? ひ、ひ、久しぶりだね!」
アンドロイドから聞こえる声。
ドクターメフィストの声は緊張し、かつ必死だった。
「げ、元気にしてるかい? 僕は元気だよ。相変わらず、いろいろ発明してる」
「どういうこと?」
レラが低い声で言った。
「わ」
トラコが怯える。
「なんか、お姉さん、めっちゃ怒ってない?」
ミアに尋ねる。
「うん」
ミアが頷く。
「え?」
メフィストの声が響く。
レラに何を訊かれたのか分からないようだ。
「ど・う・し・て」
レラが一語一語をハッキリと発音する。
「あなたのアンドロイドがここに居るの!?」
レラが声を荒げた。
「そ、それは…」
メフィストの声が小さくなる。
「あたしたちを見張ってたの!?」
「み、見張ってるというか…心配なんだよ…ほら、君の身体のメンテナンスをしなけりゃならないだろ! 必ずラボに帰ってくるように言ったのに、君が来ないから…」
「これ、何なん?」
トラコがミアに囁く。
「この声の人、誰?」
「お姉ちゃんの元カレ」
ミアが囁き返す。
「元カレ!?」
思わず大声を出すトラコをレラがにらむ。
トラコの顔から大量の汗が吹き出した。
「元カレて…じゃあ、ストーカー?」
トラコが再びミアに囁く。
「うーん」
ミアが腕組みして、首を傾げる。
「それが、お姉ちゃんもまだメフィストさんが好きなんだよねー」
「ええ!? 何それ!? めちゃくちゃ、ややこしいやん!流行ってるプレイなん?」
レラに再びにらみつけられ、トラコは自分の口を両手で押さえた。
「どうして、ここが分かったの?」
レラの声は怒りを押し殺している。
「それは…言えない」
メフィストが答えた。
「教えれば、君は僕が後を追えないようにするだろう?」
「………」
「もう、お互いに素直にならないか? この前は僕が本当に悪かった。心の底から謝るから! それに…」
「それに?」
「今回、僕はミアのピンチを救ったろ? 僕が居なければ、どうなってたと思う?」
レラの瞳がギラッと光り、ミアとトラコが恐怖で思わず抱きつき合った。




