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「それにしても」
トラコが口を開く。
しかし、トラコはよく喋る。
根っからのお喋り気質なのだろう。
「相手の居場所も分からんうちから、こんな仰山の兵隊動かして。あんまり大きな声では言われへんけど、メルドラ王子はんは戦略のセンス無いなー」
「私、思ったんだけど」
ミアが言った。
「何?」とトラコ。
「飛行機を使えば良くない? 探すにしろ、攻撃するにしろ。上から爆弾やミサイルでドカーンって!」
「わ。ミア、賢い!」
トラコが笑う。
「そやねん。それが出来たら、めちゃくちゃ楽やねん」
「だよね!」
ミアのテンションが上がる。
「それがなー」
トラコが腕を組んで首を捻る。
「出来へんねん」
「え!? どうして?」
「まずはこの星特有の激しい砂嵐。飛行機はすぐに墜落してしまう」
トラコは指を1本立ててみせた。
続けて、もう1本。
「次に王家は地下にあるレアメタルを欲しがってる。だからそこに繋がってる地下洞は出来るだけ無傷で手に入れたい。それで大規模な空爆は無理やねん」
「なるほどー」
ミアが感心する。
「それと…」
「まだあるの!?」
「これは噂やけど、ターコートの地下にはレアメタル以外の何か…めちゃくちゃ儲かるもんが隠されてるらしい」
「ええ!? 何、何!?」
「それは分からん。大きな声では言われへんけど」
トラコが声を落とす。
「何や『バイパー』も、それに一丁噛んでるらしい。知らんけど」
「バイパー」の名を聞いたレラが、ピクリと動いた。
顔をしかめる。
レラ自身が構成員の1人であった宇宙犯罪組織バイパー。
幹部であり義母であったマンマ・ハッハの一味を皆殺しにしたレラは、裏切り者と認定されている。
「ジロモキュ」と同じくバイパーの賞金リスト入り。
どこでバイパー構成員と出遭うか分からないため、レラは液状金属ボディを変化させ、元々の自分とは全く違う容姿で行動しているのだ。
ミアがバイパーに気づかれる心配は無い。
何故ならミアは元々の構成員ではないし、マンマ・ハッハの一味によって、すでに殺されたからだ。
今、現在のミアは死後の細胞からドクターメフィストによって再生されたクローン体。
いわば、この世にはもう存在しない幽霊。
レラは考える。
もし今回の件にバイパーが絡んでいるなら、慎重に行動せねば。
余計な危険を招きかねない。
レラはトラック内に視線を走らせた。
もしや、この中にバイパーが?
グルッと周りを見回し、左隣に座るボロ布を被った傭兵を通りすぎ、トラコで止まった。
ミアに近づいてきたトラコ。
まさか…。
「わ」
トラコが顔を赤らめる。
「ほんまにミアのお姉さん、べっぴんさんやなー。そんなに見つめられたら、何や照れてしまうわー」
こんなフランクなバイパー居るかな…。
否、居ないとは言い切れない…。
突然。
車内にけたたましい警報が鳴り響き、赤い照明が激しく点滅した。