21
メルドラが慌ててライトを向ける。
2人が座り込んでいた場所の真横に空いた穴から、赤いショートカットの少女が顔を出していた。
満面の笑み。
チャミがピタッと泣き止み、メルドラの背後に隠れる。
切れ長の瞳を輝かせ、少女が穴から出てきた。
ターコートの質素な民族衣装姿。
しかし、メルドラの見覚えがない刺繍が施されている。
メルドラと同年代に見えるが、背は高く手足がスラッと長い。
突如、現れた少女は怯える2人に、ゆったりとした一種、優雅とも言える動きで近づいた。
そのあまりのしなやかさに、メルドラとチャミは思わず見とれてしまった。
メルドラの前に座り込んだ少女は、チャミに笑顔を向けた。
「私、怖くないわよ」
少女の口角がニッと上がる。
少女とチャミの眼が合った。
「ニャーオ」
少女が言った。
メルドラとチャミが驚く。
しかし、チャミはすぐに笑顔になった。
少女がチャミの頭を撫でる。
「かわいいね」と少女。
「ニャーオ」
チャミが真似をする。
メルドラも笑った。
「こっちはイイ男ね」
少女が言った。
「ニャーオ」
メルドラも真似をした。
3人は笑った。
傭兵たちを積んだ軍用トラックの中、デ・レラとミア、トラコの3人は座席に横一列で座っていた。
前回の作戦で失敗したメルドラ王子からの指示で、今度は部隊を集中させ、砂賊たちの拠点を探索し攻撃する。
3人は前の戦いでは砂賊に襲撃された部隊ではなかったため、まだ1度も戦闘に参加していなかった。
「モッキュちゃん、無事だと良いけど…」
ミアが暗い顔で呟く。
王宮に傭兵たちが集められた際、偶然知り合ったかわいい子熊型宇宙人、モッキュが気になっていた。
モッキュとそのパートナー、ジローが配属された部隊は砂賊に全滅させられたというが…。
「うん? 誰のこと?」
ミアの右隣のトラコが反応した。
ミアが説明する。
「ええ!?」
トラコが驚いた。
「それって『ジロモキュ』のこと!?」
「『ジロモキュ』?」
ミアが首を傾げる。
「そう『ジロモキュ』。めっちゃ有名やねん!」
今度はトラコがミアに説明した。
「モッキュちゃん、そんな有名人だったんだ…」
「まさか『ジロモキュ』が、この作戦に参加してたとは」
トラコが右手を顎に当てる。
それから不安げなミアの肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫や、ミア」
自信満々に頷く。
「『ジロモキュ』はそんな簡単に死ぬタマやない。ハイブリッドソルジャーのジローが必ずモッキュを守るはず。絶対に生きてる」
「うん」
トラコの言葉でミアも笑顔を取り戻した。
2人の会話をミアの左隣で聞いていたレラも、トラコの意見には心の中で同意していた。
かつてドクターメフィストのラボで出逢ったジローとモッキュ。
レラが義母マンマ・ハッハの手下ラスプーラと戦った際にはジローを戦闘に巻き込み、仇を倒すことに成功した。
ジローとモッキュは、その事実には全く気づいてはいないが…。
とにかくレラはハイブリッドソルジャー、ジローの戦闘能力はよく知っている。
ターコート王家がいくら部隊は全滅したと言おうが、ジローとモッキュは生き残っているに違いない。
レラはそう思った。