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「最初の戦いで部隊をふた手に分けたのが失敗だったと考え、今度は残った兵力を集中させ、敵を叩く作戦です。今回、攻撃を受けた地点の近くに敵の拠点が隠されているはずだと息巻いています」


「ふん」


 ガシュラが鼻で笑った。


「遊びのつもりか? おめでたい奴め」


 確かに、おめでたさならメルドラの右に出る者は居ない。


「奴がおかしな動きをしないか見張れ。この前のような見落としは許さんぞ」


 メルドラの砂賊討伐への立候補を言っているのだ。


 そんなの分かるわけねーだろ!


 私がメルドラの頭の中を覗けるとでも思っているのか、この筋肉ゴリラは!?


「はっ」


 心の内とは裏腹に、ラヴィは殊勝な振りで頭を深々と下げた。




 メルドラは、またしても窓枠に腰かけ、上天の月を眺めていた。


 その顔には、せっかく集めた部隊の半分をたった1日で失った屈辱は、全く見受けられない。


 月明かりを浴び、キラキラと輝く白い髪を右手でサラリとかき上げる。


 市街地から聞こえてくる笛の音。


 それに耳を傾けつつ、猫のような表情を浮かべた。


 しばらくして、笛の音が止む。


 眼下に広がる街並みの向こうに、真っ白い砂丘が広がる。


 メルドラは思い出す。


 8年前。


 砂漠。


 砂丘に満月の一夜のみ咲く、美しい花を見たいと妹のチャミにねだられ、メルドラたちは侍従の眼をくらませ、2人きりで王宮の地下にある秘密通路を使って、街へと出た。


 偶然、出遭った市民に衣服の飾りの宝石を渡し、バギーを譲り受け、意気揚々と夜の砂漠に出発したのだった。


 だが。


 30分ほど走ったところで、ターコートの代名詞である砂嵐に遭遇してしまう。


 たまたま発見した小さな洞窟にバギーで乗り入れ、難を逃れようとしたが、そこで突然、(もろ)かった地面が割れ、バギーごと下層へと転落する。


 衝撃で兄妹は気を失った。


 このときメルドラは正直、自分たちは死んだと錯覚した。


 気がつくと、2人は下層の洞窟に砂まみれで倒れていた。


 どうやら、落ちる途中でバギーから放り出され、柔らかい砂の上に着地したらしい。


 そのおかげで2人に全く怪我は無かった。


 車体の半分以上が砂に埋もれたバギーには、ライトや3日分の携帯食料と水が入ったリュックが、ひとつだけ積まれていた。


 メルドラは不安げな妹を連れ、心許(こころもと)ない装備だけを手に、地下を縦横無尽に走る地下洞窟へと挑んだ。


 もちろん、そこには勝算など無かった。


 そもそも目的の花の位置さえ、正確には知らない2人だ。


 こんな事態は微塵(みじん)も想定していない。


 勘に任せて闇雲に動いた結果、全ての食料と水を使い果たし、真っ暗な洞窟の中で2人座り、抱き合っていた。


 実際のところ、どれだけ時間が経ったのかも分からない。


 父と母恋しさと空腹で、チャミは泣き始めた。


 満月の夜に咲くその花が、母メリステアの美しさに例えられるのを聞き、ひと目だけでも見てみたいと兄に駄々をこねた結果が、これだった。


 ただただ泣き続ける妹を見つめ、メルドラも瞳を潤ませていた。


 ろくな準備もせず王宮を飛び出し、自らも妹も生命の危機に晒してしまった。


 全ては自分の責任だ。


 メルドラの瞳から、ついに涙がこぼれ落ちそうになった、その瞬間。


「すごい泣き声ね。それだけ泣けるなら大丈夫」


 突然、暗闇から少女の声がした。







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