18
「あなたたち」
女の声に2人が顔を向けると、そこにエルフィンが立っていた。
右手に小型のスキャナーを持っている。
武装解除された時の、2人のデータをスキャンしたようだ。
「ジローとモッキュね」
エルフィンが笑顔で訊いた。
2人が顔を見合せる。
「そうだ」
ジローが答えた。
隠しても仕方ない。
「あなたたち2人に話があるの。私といっしょに来て」
そう言ったエルフィンが、2人に背を向け歩きだす。
ジローとモッキュは再び顔を見合せた。
2人同時に肩をすくめ、エルフィンの後に続く。
洞窟を奥に進むと仮設の居住施設が現れた。
傭兵たち全員が寝泊まり出来る数が設置されている。
やはり、今回の襲撃が入念に準備されていたのは間違いないようだ。
エルフィンは小さな建物のひとつに入っていく。
通信機器とテーブルと椅子が何脚かあるだけの簡素な部屋だ。
エルフィンは椅子のひとつに座り、2人にも座るよう促した。
ジローとモッキュが従う。
「あなたたち2人のことは調べさせてもらったわ」
エルフィンが口を開く。
「あなたたちには、どうしても味方になって欲しいの」
ジローが顔を曇らせる。
エルフィンが続けた。
「今回、傭兵たちを集めたのはメルドラだけど」
エルフィンがジローとモッキュを交互に見つめる。
「さっき説明した通り、正規軍はガシュラが握ってる。アメンドラ陛下がご健在の時は皆、上手くいってたの。でも陛下が重い病にお倒れになってから、ガシュラの圧政が始まった。どの街も重税を課せられ、市民はとても苦しんでるわ。逆らう者は問答無用で全て監獄行き。ひどいものよ」
「「………」」
「私たちは元の平和を取り戻したい。それにガシュラは、これも狙ってるの」
エルフィンが懐から小瓶を取り出し、2人に見せた。
小瓶の中にはエメラルド色の液体が入っている。
「わ! キレイ!」
思わずモッキュが声を上げた。
「シィムの水よ」
「シィムの水?」
モッキュが首を傾げる。
か、かわいい!!
ジローの両眼がハートになる。
いや、エルフィンの赤い瞳も同じくハートに。
まあ、無理もない。
ジローはエルフィンを許した。
モッキュは宇宙一かわいいのだから。
ジローの咳払いに、エルフィンが正気に戻った。
「ええ、シィムの水」
言い直す。
「この水を飲むと1時間ほど身体能力が強化されるの」
「ええ!?」
モッキュが右手を口に当てて驚く。
かわいい。
「ジローの『ブーストON』に少し似てるね」
モッキュがジローに言った。
今度はエルフィンが咳払いして、ジローを正気に戻す。
「ああ」とジロー。
砂賊たちの中に、ずば抜けて戦闘力が高い者が居たのは、この水のせいだったのかとジローは納得した。
道理で、こちらがすぐに制圧されたわけだ。
「でも、この水には中毒性がある」
エルフィンが続けた。
「私たちはターコートを離れられないの」
「へー」とモッキュ。
少し悲しそうに小瓶を見つめる。
「そもそもこの水は私たちに取って、とても神聖な物。巫女たちの正式な儀式によってしか汲み出すことは許されない」
小瓶の液体に向けられたエルフィンの眼差しには、確かに敬意がこもっていた。
「それなのにガシュラは」
エルフィンの顔が怒りに歪んだ。
「私たちを皆殺しにして、この水を奪い、新しい人体強化薬を造ろうとしているの」
「ええ!?」
モッキュが怯える。
「悪党が考えそうなことだ」
ジローの右の口角がグッと上がる。
シニカルなスマイル。