16
「ジロー」
モッキュが不安そうに呼ぶ。
ジローは右手に持った大口径ハンドガンを腰のホルスターに納め、モッキュの頭を撫でた。
「大丈夫」とジロー。
「モッキュは絶対に俺が守る」
「うん」
モッキュが笑顔で頷く。
ジローの右脚にギュッと抱きついた。
砂賊は傭兵たちを武装解除すると、戦闘で破壊されなかったトラックに乗るよう指示した。
少数の見張りの砂賊も乗り込み、トラックを発進させる。
それは明らかに予め決められていたスムーズで無駄のない動きだった。
トラックに乗る前にジローが観察したところでは、戦闘時間が短かったため、ほとんどの傭兵はろくに戦わず捕まっている。
正規兵はさすがに傭兵よりも抵抗した者が多かったのか、数が3割ほど減っているようだ。
印象的だったのは武器を取り上げられる際、砂賊たちが持ち主も同時にスキャンし、データ登録したことだ。
誰の武器かを後で分かるようにするためか?
何のために?
ジローは首を傾げた。
この襲撃は不可解な点がある。
傭兵たちの中にはジローが今までの仕事で出逢った者も何人か居た。
身体をサイボーグ化したり、銃以外の武器を隠し持つ者もちらほら見える。
しかし彼らは無理に抵抗せず、大人しく様子を窺っているようだ。
どう行動するのが一番得かを冷静に見極めているのだろう。
ジローもいざとなれば、ブレスレットに仕込まれた増強剤を使用し、ハイブリッドソルジャーの切り札「ブーストON」を発動するつもりだ。
モッキュと2人で逃走できれば、それで良い。
命あっての物種だ。
トラックは20分ほど走り続けた。
ふた手に分かれていた、もうひとつの部隊も砂賊の奇襲の連絡は受けたはず。
しかし、敵が現れた際に挟み撃ちする策のため、離れた場所に陣取っていたのが仇になった。
おそらく、別部隊はすぐに襲撃現場へと移動しただろうが、着いた頃には砂賊はもう居ない。
こちらは完全に出し抜かれている。
トラックが止まった。
扉が開く。
いっしょに乗っていた砂賊の見張りが、傭兵たちに銃を向ける。
「降りろ」
砂賊の言葉に傭兵たちは順番に外へと降りていく。
ジローとモッキュも、その列に続いた。
薄暗い洞窟の中に出た。
砂賊の攻撃車両と奪われたこちらの車両全てを停車できる規模の、広々とした空間だ。
砂賊の隠れ家のひとつか?
トラックから降りた傭兵たちは洞窟の中央に集められた。
正規軍は奥へと連行されていく。
集められた傭兵たちの周りを武装した砂賊が取り囲む。
砂賊の数は、おおよそ200ほどか。
7倍近い敵に勝利したことになる。
洞窟の岩肌に座らされ、1時間が過ぎる。
そろそろ傭兵たちも焦れ、イライラし始めたところで、前方に設置された大きな台の上に1人の砂賊が立った。
「私は王家が『砂賊』と呼ぶエズモの族長エルフィン」
戦闘服の上から砂色の布を羽織った、族長と名乗る砂賊は16、7歳ほどに見える少女だった。
額に上げたゴーグル。
燃えるような赤色の瞳同様、真っ赤な髪が胸の辺りまで伸びている。
切れ長の両眼。
しっかりとした鼻。
厚めの唇。
意思の強さを感じさせるエキゾチックで整った顔立ちだ。
175㎝を越える長身。
細身だが鍛え上げられた戦士の肉体が、戦闘服越しにも見てとれる。
少女は右手に持った小型拡声器を口に当て、再び話し始めた。
「君たちにはまず、これを見て欲しい」