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 メルドラが集めた傭兵たちと王家の軍の合流、編成が終わった。


 建前はメルドラの動かせる3000の兵力が出来上がった形である。


 メルドラが軍を使いガシュラに反逆せぬよう、実質見張りとして付けられた指揮官とその副官に、昼行灯王子とラヴィは接見することとなった。


 指揮官は30代前半の、いかにも軍人といった(たたず)まいの男。


 もちろん、ラヴィと同じく古くからガシュラに仕える家の出身だ。


 広々とした作戦会議室の卓上に映し出されたホログラムの砂丘をメルドラが指揮棒で指した。


「このところの砂賊の動きから、いくつか割り出した敵の拠点と思われる場所のひとつを攻撃する」


 メルドラの言葉を指揮官は内心、鼻で笑った。


 予想していた通り、この馬鹿で哀れな王子は何も分かっていない。


 砂賊たちは複数の拠点を頻繁に行き来し、実態を掴ませない。


 奴らには非戦闘員など存在しないため、それが可能なのだ。


 どこかひとつの拠点に決め打って攻撃したとして、たまたま砂賊のリーダーや本隊がそこに居る確率は極めて低い。


 そんな不確かな見込みで3000の兵を動かそうというのか?


 もぬけの(から)の砂賊たちの拠点を手に入れるか、少数の敵を打ち破って拠点を手に入れるか?


 どちらにしろ、大きな兵力を動かし成果は微々たるもの。


 占領した拠点に守備兵を残し、次の拠点を攻める。


 それを繰り返し、物資を消費し兵士たちの疲労も溜まったところで。


 必ず砂漠たちは逆襲してくる。


 そして戦線は無惨に食い破られるのだ。


 それが実際、これまでガシュラの軍勢を見舞った運命であった。


 だからこそ、現在の陣地を少しずつ増やし前線を押し上げ、砂賊たちの行動範囲を狭めていく戦略をガシュラは執っているのだ。


 メルドラの命じる何の鋭さもない凡庸(ぼんよう)な軍の運用では、作戦は確実に失敗する。


 そこまで考えた指揮官は、思わずほくそ笑んだ。


 ガシュラはメルドラが傭兵たちを失うのを望んでいる。


 今回の軍費に注ぎ込んだメルドラの資産が泡と消えるのは、ガシュラにとっては有利に働くからだ。


 指揮官である自分の役目は、傭兵たちが砂賊と戦うのを見届け、正規軍を出来るだけ無傷で引き上げさせることにある。


 傭兵たちが砂賊に勝つなら尻馬に乗り、負けるようなら見捨てて逃げる。


 その見極めこそが、自分に課せられた任務なのだ。


「敵が討って出てきた場合を考え、軍を1500ずつの2つに分ける」


 メルドラが言った。


 何やら得意げだが、敵の拠点に部隊が居るのかも分からぬうちから何を言っているのか?


「砂賊が出てきたら、2つの軍で挟み撃ちにするんだ! 良い作戦でしょ!?」


 メルドラが嬉しそうに笑う。


 指揮官か頷く。


 内心では「馬鹿め」と嘲笑(あざわら)っていた。


「部隊の指揮はそれぞれ、君と副官にお願いするよ」


 メルドラがそう言うと、その後ろに居るラヴィがコクコクと首を縦に振る。


 この天然王子を戦場に出すなど、あり得ない。


 とりあえず、メルドラ本人が納得のいく作戦が指示されたという事実が必要なのだ。


 後は傭兵たちが犠牲となって、メルドラは財産を失い、作戦失敗の責任を取らされ終わる。


 ラヴィはふと、メルドラがかわいそうになった。


 少年王子のこれからを決める大事な瞬間に、彼の周りに居る3人は全員、ガシュラの息がかかった敵なのだ。


 あまりに不憫(ふびん)すぎる。


 ラヴィは目頭(めがしら)を押さえた。


 しかし、これも私の一族が生き残るため。


 ありがとう、メルドラ王子。


 そして、さようなら。


 ガシュラも弟の生命までは奪わないと思うから。


 ラヴィはメルドラの背中に向かって両手を合わせた。




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