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 メルドラを見つめるラヴィの眼が細くなる。


 疑いの眼差し。


 どうせ、ちゃんと聞いてないだろ?


 てか、作戦とか本当にあるの?


 ただ、兵士を集めれば砂賊に勝てると思ってない?


 メルドラが口を尖らせて、左手を顎に当てた。


 一丁前に考えてる感、出してくるじゃん!


 顔はかわいいよね。


 キスしたい!


 否、イカン、イカン。


「ニャーオ」


 まただ。


 猫スマイル。


「兄上の兵士を編入し終えたら、僕が直接、指揮官に作戦を説明するよ」


 ラヴィは我が耳を疑った。


 どうやら、本気で作戦を考えていたようだ。


 しかもそれを自ら、部隊の指揮を執る者に説明するつもりか。


 傭兵たちの指揮はもちろん、合流した正規軍人が行う。


 傭兵たちはそれに従うだけだ。


 不思議系王子が珍しくまともな行動を取ろうとしている。


 これには驚きを禁じ得ない。


 さすがのメルドラも今回の作戦が失敗すれば、自らが窮地に陥ると分かっているのか?


「かしこまりました。手配いたします」


 ラヴィが頭を下げる。


 メルドラはニコッと笑うと、再び外から聞こえる独創的な曲に耳を傾けた。


 それ以上は何も用が無いと判断したラヴィは退室した。


 ガシュラの部下である、部隊の指揮官たちにメルドラの意向を伝えねばならない。


 ラヴィの背中をメルドラが見送った。


 美しい笛の音だけが室内に聞こえる。


 メルドラは窓から夜空を仰いだ。


 昼間は容赦なく照りつける2つの太陽とは違い、ターコートの月はひとつ。


 白く輝き、優しく地上を照らす。


 緩やかな風がメルドラの白い髪をサラサラと揺らした。


 上天の月明かりと風の感触に、昔の記憶が甦る。


 8年前。


 メルドラは9歳。


 夜の砂丘に座り、メルドラはターコートの横笛レーベを吹いていた。


 メルドラの白髪が月明かりでキラキラと輝く。


 1曲目を吹き終えた。


「上手になったね」


 背後から声がした。


 メルドラが振り向く。


 同じ年頃のかわいらしい少女が居た。


 ターコートの質素な民族衣装姿。


 少女がメルドラの隣に座る。


 顎までの赤いショートヘアが揺れた。


 2人の赤い瞳が見つめ合う。


「違う曲を吹いて」と少女。


「違う曲?」


「うん。私のために吹いて」


 メルドラが頷き、笛を構える。


 ゆっくりと笛の音が始まる。


 先ほどとは違う曲。


 少女はそれを聴き、うっとりとした。


 しばらくして、曲が終わる。


「素敵だわ」


 少女が笑顔を見せた。


「ありがとう」


 少女の言葉にメルドラも微笑む。


「あなたと出逢うと知ってたわ」


 少女が再び口を開く。


 メルドラが首を傾げた。


 少女がクスッと笑って、少し頭を上げる。


 上方を指した。


 メルドラがそちらを見る。


 そこには満天の星空。


「星たちが教えてくれたの。運命の人に逢えるって」


「運命の人?」


「そうよ。ひと目見て、あなたが私の運命の人だって分かったわ」


「………」


「あなたはどう? 何も感じない?」


 メルドラは首を横に振った。


「僕もすぐに分かったよ」


「良かった。お互いに見つけられたのね」


 2人は再び見つめ合った。


 そして優しく口づけを交わした。


 8年前の砂漠。


 2人だけの思い出。


 宮殿外の街から聞こえていた笛の音が止んだ。


 メルドラが(ふところ)からレーベを取り出す。


 それを口に当て、ゆっくりと美しい音色を奏で始めた。









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