13
メルドラを見つめるラヴィの眼が細くなる。
疑いの眼差し。
どうせ、ちゃんと聞いてないだろ?
てか、作戦とか本当にあるの?
ただ、兵士を集めれば砂賊に勝てると思ってない?
メルドラが口を尖らせて、左手を顎に当てた。
一丁前に考えてる感、出してくるじゃん!
顔はかわいいよね。
キスしたい!
否、イカン、イカン。
「ニャーオ」
まただ。
猫スマイル。
「兄上の兵士を編入し終えたら、僕が直接、指揮官に作戦を説明するよ」
ラヴィは我が耳を疑った。
どうやら、本気で作戦を考えていたようだ。
しかもそれを自ら、部隊の指揮を執る者に説明するつもりか。
傭兵たちの指揮はもちろん、合流した正規軍人が行う。
傭兵たちはそれに従うだけだ。
不思議系王子が珍しくまともな行動を取ろうとしている。
これには驚きを禁じ得ない。
さすがのメルドラも今回の作戦が失敗すれば、自らが窮地に陥ると分かっているのか?
「かしこまりました。手配いたします」
ラヴィが頭を下げる。
メルドラはニコッと笑うと、再び外から聞こえる独創的な曲に耳を傾けた。
それ以上は何も用が無いと判断したラヴィは退室した。
ガシュラの部下である、部隊の指揮官たちにメルドラの意向を伝えねばならない。
ラヴィの背中をメルドラが見送った。
美しい笛の音だけが室内に聞こえる。
メルドラは窓から夜空を仰いだ。
昼間は容赦なく照りつける2つの太陽とは違い、ターコートの月はひとつ。
白く輝き、優しく地上を照らす。
緩やかな風がメルドラの白い髪をサラサラと揺らした。
上天の月明かりと風の感触に、昔の記憶が甦る。
8年前。
メルドラは9歳。
夜の砂丘に座り、メルドラはターコートの横笛レーベを吹いていた。
メルドラの白髪が月明かりでキラキラと輝く。
1曲目を吹き終えた。
「上手になったね」
背後から声がした。
メルドラが振り向く。
同じ年頃のかわいらしい少女が居た。
ターコートの質素な民族衣装姿。
少女がメルドラの隣に座る。
顎までの赤いショートヘアが揺れた。
2人の赤い瞳が見つめ合う。
「違う曲を吹いて」と少女。
「違う曲?」
「うん。私のために吹いて」
メルドラが頷き、笛を構える。
ゆっくりと笛の音が始まる。
先ほどとは違う曲。
少女はそれを聴き、うっとりとした。
しばらくして、曲が終わる。
「素敵だわ」
少女が笑顔を見せた。
「ありがとう」
少女の言葉にメルドラも微笑む。
「あなたと出逢うと知ってたわ」
少女が再び口を開く。
メルドラが首を傾げた。
少女がクスッと笑って、少し頭を上げる。
上方を指した。
メルドラがそちらを見る。
そこには満天の星空。
「星たちが教えてくれたの。運命の人に逢えるって」
「運命の人?」
「そうよ。ひと目見て、あなたが私の運命の人だって分かったわ」
「………」
「あなたはどう? 何も感じない?」
メルドラは首を横に振った。
「僕もすぐに分かったよ」
「良かった。お互いに見つけられたのね」
2人は再び見つめ合った。
そして優しく口づけを交わした。
8年前の砂漠。
2人だけの思い出。
宮殿外の街から聞こえていた笛の音が止んだ。
メルドラが懐からレーベを取り出す。
それを口に当て、ゆっくりと美しい音色を奏で始めた。