12
宮殿の廊下をラヴィは進む。
向かうはメルドラの部屋。
この1ヶ月、本当に大変だった。
そう、メルドラが砂賊討伐を宣言したあの日からの1ヶ月だ。
まず速攻でガシュラの部屋に呼び出され、大目玉をくらった。
「何故、メルドラの動きを報告しない!?」
そんなの分かるわけねえだろ!!
兄弟のお前でも分かんねえのに!!
喉まで上った言葉をラヴィがギリギリで飲み込む。
ラヴィはすぐさま平伏し、許しを乞うた。
怖すぎてガシュラの顔は見れない。
私、終わった?
てか、一族終わった?
「だが、まあ結果は悪くない」
ガシュラの声の調子が変わった。
これは上機嫌な声では?
ラヴィが恐る恐る顔を上げる。
ガシュラは「ふふん」と笑っていた。
「これでメルドラを潰せる。カサンドラも牽制できるだろう」
ガシュラの真っ赤な瞳がラヴィをねめつける。
「作戦はメルドラに考えさせろ。あいつには敗けたときの責任を取らせる。万が一、勝てば砂賊は居なくなる。どちらに転んでも損はない」
汚ねーなー。
美味しいとこ取りかよ。
ラヴィは心の中で唾を吐いた。
「ただ、メルドラが集めた傭兵でこちらに牙を剥くやもしれん。おかしな動きをさせぬよう、我が軍の兵を1000、傭兵たちに合流させる。まあ、あいつが母親と妹を見捨てるとは思えぬがな」
ラヴィは計算した。
王家の兵は総数10000。
そのうち1000を無くしたとしても、大勢に影響はない。
メルドラの集めた傭兵は2000。
たとえガシュラに楯突いたとしても、メルドラ側に勝ち目はない。
これは詰んだな。
ラヴィは思った。
終わったのは私の一族じゃなく、メルドラ王子だ。
ガシュラは再び、ラヴィにメルドラをしっかりと見張るよう、きつく釘を刺し、ようやく解放した。
さあ、気を引き締めないと。
かわいそうなボンクラ王子が全ての力を奪われるまで、きっちりと見届けなければ。
先に挨拶を済ませておこう。
さようなら、メルドラ王子。
ラヴィはメルドラの部屋の前に着いた。
重厚な飾りが付いたドアをノックする。
「王子ー」
「入ってます!」
知ってるよ!!
「入りますよ!」
「ラヴィ~?」
もう3年もお側付きだよ!!
いいかげんに覚えろよ!!
ラヴィは部屋に入った。
またも、窓の出っ張りにメルドラが座っている。
眼を細め、外から聴こえる笛の音に耳を傾けているようだ。
この曲、初めて聴く曲だな。
最近、新しい曲ばかり聞こえてくる。
巷で流行っているのだろうか?
「メルドラ王子!」
少年がこちらをハッと見る。
いやいや、さっき話したじゃん!!
何で毎回、驚くの!?
「誰!?」
そこから!?
「ラヴィです、メルドラ王子」
「ああ!」
もう知らん。
「傭兵たちの登録手続きと編成は順調です。明日には完了します」
ラヴィの報告をメルドラは神妙な顔で聞いている。
ように見える。