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「実戦は初めてなんだから、気をつけるのよ。とにかくあたしから離れないこと。いい?」
「分かってるよー。何回、同じこと言うの? もう聞き飽きた」
ミアがブーたれる。
「ちょっと! ゲームじゃないのよ! 本物の戦闘だと一瞬で死ぬんだから!」
「うんうん。お姉ちゃんが守ってよ」
「そりゃあ、守るよ! でもミアも気を引き締めないと」
「あー!!」
レラの話を遮る大声が響く。
ミアの声ではない。
いつの間にか、ミアの隣に同年代ほどの少女が居た。
黒と黄のボディスーツに防弾ジャケットを羽織っている。
コンパクトなタイプのアサルトライフルを背負い、腰のホルスターにも一丁のハンドガン。
小柄で細身なところはミアに似ている。
クセの強い黒い短髪はグシャグシャ。
左頬には稲妻模様のペイント。
アーモンド型の紺色の瞳がミアのヘルメットを凝視している。
「マッシュやん!」
少女が叫んだ。
レラの眼が点になる。
マッシュ?
てか、この娘は誰なの?
「あー!!」
今度はミアが叫んだ。
少女の防弾ジャケットの右胸のホログラムステッカーを指す。
「キンゼイ!!」
「そやねん!!」
少女が嬉しそうに頷く。
「あらゆるパラレル」
少女が言った。
「あなたに惹かれる」とミアが返す。
「「ドッキング!!」」
2人が声を揃え、同時に敬礼した。
「は?」
レラが、きょとんとなる。
「「イエーイ!!」」
2人はハイタッチ。
「先週のラスト、どう思う?」
少女がミアに訊く。
「かなりピンチだよね」
ミアが表情を曇らせる。
「やんなー。でもアタシはマシュキンを信じてる。ホウライカンゼオーが重要な鍵やと思うねん」
「それは私も思ってた!!」
「やろやろ!!」
2人の少女の会話はどんどん盛り上がり、終わる気配が無い。
「ちょっと!」
レラが割って入る。
「何の話よ?」
「ああ」
ミアが「何言ってるの?」という顔になる。
「『マシュキン』だよ」
「『マシュキン』…って?」
「え!? お姉ちゃん知らないの? いつも私が観てるでしょ」
「?」
「アニメだよ、アニメ!」
レラは首をひねった。
そう言われれば、ミアが何かのアニメを必死に観ていたような…。
「それぞれ別の星の王子、マッシュとキンゼイがお互いの星を飛び出して運命的に出逢うねん! そこから2人の旅が始まって、次々と出てくる悪人どもをバッタバッタと倒していく! ただ2人が偶然見つけた宇宙船ホウライカンゼオーには、いくつもの謎があって」
「待って、待って!!」
鬼のようにまくし立てる少女をレラが遮った。
「全然、分かんない!!」
「ええー。ここからが、めっちゃおもろいのにー」
少女が口を尖らせる。
「アタシ、トラコいうねん。自分は?」
トラコと名乗る少女がミアに訊いた。
「私はミア。よろしくね、トラコちゃん」
「呼び捨てでええよ。アタシもミアって呼んでいい?」
「うん」
「ミア、この女の人、誰?」
「私のお姉ちゃん」
「へー! めっちゃ美人なお姉さんやなー。お姉さん、アタシ、トラコです。よろしくー」
「あ、ああ…レラよ」
そしてトラコはミアとアニメの話を再開した。
レラは2人のかしましい会話を隣で聞きながら、あまりのチンプンカンプンさに、別の世界に迷い込んだような錯覚に陥るのだった。