10
「でも、今の人はミアちゃんのお姉さんでしょ?」
この大広間で、ほんの5分ほど前に出逢った新米傭兵のミア。
ジローより少し歳下の少女である。
どノーマルのコンバットスーツにピンクのヘルメット。
ヘルメットにはホログラムのアニメキャラステッカーを貼り付けていた。
これまた、どノーマルなハンドガンを右太もものホルスターに納めた様子からも、ビギナー感が満載だ。
「うーん」
今度はジローが唸った。
「見た目も全然、違うよね?」とモッキュ。
「た、確かに…でも、眼がそっくりなんだよなー」
「似てるだけじゃない?」
「そっか…」
そう言いつつもジローは、まだ納得がいかないようだ。
「あの愛想の悪いニラ女じゃなかったか…」
「ニラじゃなくてレラさんだよ!」
モッキュが笑う。
「ハックシュンッ!!」
抜群のプロポーションを持つ、長身の20代前半の女がくしゃみした。
腰までの艶やかな金髪。
白い肌と整った顔。
瞳は深緑だった。
どノーマルのコンバットスーツに黒のヘルメットを被っている。
ジローとモッキュとは離れた大広間の反対側。
傭兵登録の受付の列に並んでいる。
「何? お姉ちゃん、風邪引いた?」
女の側に立つ少女、先ほどジローとモッキュの話題に上っていたミアが、心配そうに声をかける。
「ミア」
女がミアを見つめた。
「あたしはサイボーグなのよ。風邪なんか引くわけない」
「だって、くしゃみしたから」
「…そ、そうね…」
女が不満げに左の口角を上げる。
女の名はデ・レラ。
元々はこの惑星ターコートで妹のミアと共に暮らしていた。
貧村の生活で死にかけたところを宇宙犯罪組織バイパーの幹部マンマ・ハッハに拾われ、組織の一員となった。
しかし、宇宙一の殺し屋ガツビィ・ブロウウィンとその孫娘チャツネとの戦いに敗れ、あろうことか義理の母マンマに見捨てられる。
それどころかマンマはレラへの怒りの捌け口を罪なきミアに向け、無惨に殺害した。
マンマへの激しい復讐心を抱いたレラは、奇人の天才科学者メフィストによって…。
「ああー!!」
ミアが大声を出した。
「何よ!」とレラ。
「メフィストさんがお姉ちゃんの噂をしてるのかな? メフィストさん、お姉ちゃんがめちゃくちゃ好きだから」
メフィストの名を聞いたレラは、苦虫を噛み潰したような顔になる。
しかしそれでいて、顔はほんのり赤い。
「メフィストの話はしないで!!」
レラがそっぽを向く。
「もういい加減、素直になったら?」
ミアが呆れる。
「お姉ちゃんも逢いたくて仕方ないでしょ?」
レラは無言だ。
「はあ」
ミアがため息をつき、肩をすくめた。
「3ヶ月に1回はメンテナンスした方が良いって、メフィストさんも言ってたよね。そろそろ身体がメフィストさんを求めてるんじゃないの?」
「ミア!!」
レラが振り返り、怒った。
「変な言い方しない!!」
「はーい」
ミアがペロッと舌を出す。
この姉妹の容姿が全く似ていないのは何故か?
それはメフィストによって瀕死の重症からサイボーグに生まれ変わったレラが、自らの身体を変幻自在に変えられるからである。
マンマ・ハッハとその一味を皆殺しにしたレラは、バイパーの高額賞金首に指定されていた。
シンプルな命令。
「デ・レラを捕まえるか殺せ」である。
そのためレラは、本来の自分とは違う姿で今回の傭兵募集にやって来たのだった。
「そんなことより、ミア」
レラが言った。
話題を変えたいようだ。




