俺と少女の逃亡劇
「ねぇ! お願い、あたしを助けて!」
「……はぁ!?」
今思えば、ここから始まった逃亡劇。俺は巻き込まれた方だけど、本当に辛い逃亡劇だった……と思う。いや、マジデ。
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「もっと、速く走れよ! 追いつかれるぞ!」
「もう……無理だよぉ……」
まったく、なんで俺はこんなことしてるんだ、思いつつ、行き交う人をかき分けながら少女の手を取り走り抜けていく。行き交う人が俺たちに注目していた。何者かが後ろから「待て!」と言っている。行き交う人の視線が今度はそっちに移る。待てと言われたからと言って待てるわけがない。
今から十分程度遡る。
空は澄んでいて満点の輝きを放っていた。平凡な大学に通うただの大学一年生。コンビニのバイトが終わる頃には日も落ち、多少肌寒かった。まっすぐ帰宅するわけでもどこかへ立ち寄るわけでもなく俺は、ただ歩いていた。
行き交う人は皆、誰も俺のことなんて見ていない。そこら辺にいる、ただの大学生だから。身長も平均。勉強も平均。運動も平均。全てにおいて平均的だった。若干顔は童顔なのだが、特に特徴のない大学生だった。それが短所でもあり長所でもあった。
宛てもなくなく歩いていて、ふと我に帰ると、さすがに少し寒かった。季節は冬半ば。クリスマスも近い。そろそろ家に帰ろう、そう思った時だった。
「あわわわわ……あぅ……」
「ぬぁ……」
ドスンと押されたかのように少し前のめりになる。
「ちょっと! ちゃんと前見て歩きなさいよね!」
「後ろからぶつかって来てどうやって避けろっていんだよ!」
後ろを向き、ぶつかってきた何かに反抗する。そこには少女が立っていた。黒髪ストレートの美人というよりは可愛いという言葉の方が似合う少女。ややきつめのクリっとした目が特徴的だった。
きょとんとした顔から頷くと、
「それもそうだよね」
と言った。わかってるんだろうか、この少女。返す言葉が見つからなかった。
「じゃなくて! 大変! 大変なんだよ!」
「大変なのはわかった! あんまり大きな声で喋るな、周りが注目するから」
少女が周りを見回すと人の視線が全て少女に集まっていた。動じるわけでもなく「何見てるの!」と言い放つ、度胸が素晴らしいと思う。おかげで注目からは解放されたが、少女からは解放されなかった。
「ねぇ! お願い、あたしを助けて!」
一瞬理解が出来なかった。
「……はぁ!?」
数秒後、若干理解する。
「来た!」
「何が!?」
「あいつらよ!」
「あいつらってなんだよ!」
少女は俺たちの後ろを指差した。黒いスーツをした人たちが確かにこっちに向かって走って来ていた。少女を狙っているのかわからないが、状況は何となくわかった気がする。あくまで何となくだけど。
「……わかった」
俺は小さく言い、
「逃げるぞ」
と続けた。少女の手を取り行き交う人をかき分けながら謎の追っ手から逃げることを決意した。
しかし、これがどうしてなかなかしぶとく振り切ることが出来なかった。少女の体力も限界近い。肩で呼吸している。だが、おんぶして逃げるなんてできない。このままの持久戦になったら明らかに不利なのはこっちだった。
だから、俺は賭けに出た。
次の角を左に曲がる。表から裏通りへ。細い道が続いた。左へ、次を右へ。
「ねぇ、これどこいくの……」
少女の顔は不安そうだった。
「……俺にもわからない」
「……何よ、それ」
黒いスーツの集団はしっかりとついて来ていた。
次を右へ……。その先は行き止まりだった。
「ねぇ! 行き止まりじゃん!」
あるのは塀だけだった。隠れる場所もない。スーツの集団が来るのも時間の問題だった。場に似つかないドタドタとした足音がすぐ近くで聞こえる。
終わりだ、そう思った。
「いたぞ! あの不届き者を捕まえろ!」
黒いスーツに囲まれる。そして捕まった。
俺だけが。
「……へ?」
あまりの予知してなかった展開に変な声が出た。
「お嬢様大丈夫ですか!?」
執事っぽい男の人が心配そうに少女に声をかけていた。
「……お嬢様?」
「あ、あいつは……」
少女が執事に何かを言おうとしているが、大丈夫とか怖かったでしょう?とかもう大丈夫ですからねとか言って話を聞いてもらえていなかった。
我に返ると黒いスーツの人たちに囲まれていた。しかもすごく怖い。睨まれてる。
「……あのー……?」
「「「「きっさまー! よくもお嬢様を!」」」」
終わり




