01 転入初日
柔らかな春の日差しに見守られ、私は今日から通う学校へと歩いていた……なんて嘘。柔らかな春の日差し?いや、肌に刺さるようなギラギラした夏の日差しだ。歩いて学校とか、殺してくださいって言っているようなものだ。だから、私は車で送迎してもらっている。
私、明智晴が今日から通う『国立神園高等学校』
ここは、霊感が強すぎて困っている人間の駆け込み寺の様な場所だ。学校内では、結界が貼られ一定レベルの霊は入ってこれないようになっている。まあ、この学校の一番変わっている所は、特進科と言う名の『陰陽師専攻』と『武術専攻』の裏と表が入り乱れたクラスがある所だ。
この専攻を軽く説明すると、『陰陽師専攻』は陰陽師の為の専攻。『武術専攻』は戦国武将の生まれ変わりや裏世界の住民の為の専攻。『陰陽師専攻』は五芒星、『武術専攻』は六芒星の紋章で区別されている。
私がこの学校について聞かされたのはここまでだ。後は、学校が教えてくれるらしい。父さんが言うには、この学校は裏と表が入り乱れているが、とても平和で私が願っていた普通の学校生活が出来ると言っていた。私は、小・中学校は通っていたものの、家の都合上、部活や同級生と遊ぶということは一切しなかった。つまり、九年間ボッチ生活をしていた。うん、自分で言って悲しくなったぞ。だから、高校はワガママを言って、普通の高校生活が出来るようにしてもらった。
車を降り、執事であり私の式神である透夜と一緒に職員室に向かう。校内はとても綺麗で新築かと思うくらいだ。
「晴様、ここには数人程ですが神憑きが居るようです。」
「分かってる。でも、私の敵ではない。それに、今回は仲良くなれそうよ。」
神憑きとは、神様と契約し、神様を己の身に宿した人間のことを指す。因みに、私は朱雀を宿している。
神憑きにも様々で、喧嘩をふっかける奴もいれば友人関係になろうとする奴もいる。これは単に、神様同士の相性の問題であり、その人間個人の性格とは関係ない。
さて、説明はここまでだ。職員室に着いたからな。
「失礼します。おはようございます。本日、転入してきた明智晴です。」
「おはよう。俺が担任の毛利裕斗だ。宜しくな。そっちの男は式神かな?」
今日から私の担任となるこの男、かなり見目がいい。さぞ熱狂的ファンがいるだろう。
「はい、宜しくお願いします。」
「式神の透夜と申します。以後お見知りおきを。」
軽い挨拶を終え、教室に案内される。特進科の教室は別棟にあるらしく、外部の人間は特進科の教室に行けないようになっていた。まあ、国家機密レベルの人間も居るのだから当たり前か。
「校内に入る前にこちらを。」
そう言って渡されたのは、私の顔写真付きのカードだった。例えるなら、会社の社員証だ。
「このカードが無ければ、教室どころか別棟の校内にも入ることも出来ないから、紛失しないように気をつけろよ。」
「分かりました。」
「さて、教室に行こうか。」
ドア付近にあった生徒用のカード認証の所に、カードをかざし中に入る。中に入ると、空調が効いておりとても快適だった。流石、国立と言った所かな。
大理石で出来ている廊下を歩いていると、紫の文字で【1ーA】と書かれた表札が目に入った。
「お先にどうぞ。」
裕斗さんがドアを開けてくださり、私は、ゆっくりと教室に入った。
「皆、楽しみにしていた転入生だぞ。良かったな、女だ!」
「初めまして、明智晴です。宜しくお願いします。」
改めてゆっくりとクラスメイトの顔を見ると、皆受け入れてくれていた。てっきり、数人位は面白くなさそうにしている人間が居ると思ったが、心配する必要は無かったな。
「席は、織田の隣だ。織田、手を上げろ。」
なんか、刑事が犯人を威嚇射撃する前のセリフみたい。
「うるせぇよ。転入生さん、こっちだこっち。」
織田と呼ばれた男子は、六芒星の紋章をしていた。武将の生まれ変わりか。彼も、見目がいい。というか、このクラスは見目がいい人間が殆どだ。何かの乙ゲーの世界かな?
「俺は、織田翔太。宜しく頼むよ明智さん。」
「はい、宜しくお願いしますね。織田翔太さん。」
私の席は、窓側でお昼寝に丁度良さそうだ。
「晴様、お荷物を。」
「ありがとう。助かったわ。」
「何かあれば、スグにお呼びくださいね。それでは失礼します。」
透夜は、そう言って人形の紙に戻った。
「お前ら、うずうずしすぎだ。気持ちは分かるが、そんなんだと将来危ないぞ?まあいっか。一限目のHRは交流会だ。好きにはしゃげ!」
裕斗さんのその一言で、教室は一気に五月蝿くなった。色んな方向から質問が来るが、正直、きちんと聞き取れないし名前も覚えられないから、一人ずつ言って欲しい。
「テメェら五月蝿いぞ!!明智が困ってるのか分からないのか?」
織田さんの声で、教室は水を打ったように静かになった。でも、この空気はちょっとまずいかな。
「一人ずつ、名前と質問を言ってくれると嬉しいな?」
私は、クラスメイトの恐怖の感情を和らげるように、ふんわりとだけど困ったような笑顔を作って言った。
そして、一人ずつ名前と顔と声を覚えながら、質問に答えていく。うん、これこそ私の望んでいた学校生活だ。
きっと素敵な高校生活を送れるだろう。いや、送ってみせる。