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ぼうけん


 コマドリさんが歌っているようです。

 とってもきれいな歌声。

 森の動物たちにとって、朝が来たことを教えてくれるのは、このコマドリさんたちのきれいな声なのでした。

 いつものように、森のみんなが目を醒ましたみたいですよ。



 ヘビさんとリスさんとクマさんがお話をしています。

 ドングリを投げてお願いをすると叶うという噂がある、ドングリ池へ行ってみようと約束したのですが、まだ日程が決まっていなかったのです。

 一番それを楽しみにしているリスさんが言いました。

「ねえねえ、ドングリ池に行くって約束なんだけどさ、今日じゃだめかな。」

「いいね! 僕はどんなお願いをしようかな。食べきれないくらいのご飯に埋もれる夢を見たから、あれは幸せだったなぁ、もう一回あの夢を見せてもらおっと。」

 どうやらヘビさんもそれに賛成のようです。

 どんなお願いをしようかと考え始めています。


「クマさんはどうかな?」

 涎を啜って、ヘビさんはクマさんにも聞きます。

「ぼくは、えっと、どうしよう。おばけとかでないかな。ドングリ池があるほうは危ないって言ってたし、オンボロ橋を渡らないと向こうには行けないんでしょ。」

 怖がりだから迷ってしまっているクマさんに、胸を張ってリスさんは言いました。

「大丈夫よ。何か危ないことがあっても、あたしが守ってあげるから、あたしに任せて! それに、あたしたち三匹だったら、おばけが出てきたって、きっと問題ないよ。」

 とんとんとクマさんの大きな腕を叩いて、リスさんは笑顔を向けます。

「それから、ヘビさん、幸せな夢を見たんだったら、それを現実にしてもらえるようお願いしてみなよ。もう一回夢だったら、目が覚めたときにガッカリしちゃうでしょ?」

「なるほど。リスさんは頭いいなぁ。毎日ご飯に埋もれられたら、幸せだろうな。」

「もうヘビさん、また涎が出てるったら。それじゃ、今から出発ってことでいい?」

 三匹の冒険の始まりです。



 リスさんが先頭で、その後ろにはクマさん、二匹の隣をにょろにょろとヘビさんが進みます。

「あらあら、こんな朝から三匹お揃いで、どこへ向かっておりますの?」

「ひゃぁっ!」

 森の中から声がして、びっくりしてクマさんが悲鳴を上げました。

「あらあら、驚かせてしまったようでごめんなさい。そういうつもりではありませんでしたのよ。ところでお三匹、どこを目指しておりますのかしら? 遊びに行くのなら、是非、ご一緒したいと思いましてね。」

 姿を現したのはキツネさんでした。


「今からあたしたちドングリ池に行くの。キツネさんも一緒に行こう。」

「そうだね。大勢で行ったほうが、楽しいに決まってるもん。」

「行こう行こう。もちろん大歓迎だよ。」

 リスさん、クマさん、ヘビさんの順に言いました。

「ひえぅ! ドングリ池、あそこは危ないって話じゃありませんの。行くにしたって、別のところがいいんじゃありませんかしら。」

「じゃあ、キツネさんは興味ないの? 楽しそうだと思わない? あたしはすっごく行きたいんだけど、キツネさんは行きたくない?」

 リスさんに質問されて、キツネさんは困ってしまいました。

「行きたい、ですけれども……。お怪我でもなさったらどうされますの。」

「しないように気を付けるもん。ね、キツネさん。」

「わかりましたわ。でもねリスさん、絶対に気を付けるのですよ。無理はなさらないでね。」

「うん! わかってるよ。」

 三匹は四匹になって、テクテクと歩いて行きました。


 ドングリ池へ行く、最初の難関にまで辿り着きます。

 クマさんが怖がっていたオンボロ橋です。

 風でゆらゆら揺れていて、今にも落ちてしまいそう。

「ほんとに大丈夫かな。ぼくは大きいし、落ちちゃったりとかしないかな。」

 クマさんは前にも一度だけこのオンボロ橋を渡って森の反対側へ行ったことがありましたが、そのときには、怖がって渡る前に二時間も立ち止まってしまっていたのでした。

 そのことを知っていましたから、リスさんはクマさんが怖がらないような対策をちゃんと考えてあります。


 クマさんはお歌が大好きです。

 コマドリさんのきれいな歌声も大好きなのですが、楽しそうなリスさんのお歌が大好きで、リスさんと一緒にお歌を歌うことが、とーっても大好きなのです。

 怖がってしまっているクマさんの前で、明るく楽しいお歌をリスさんは歌い始めました。

「ランランラ~ン♪」

「ラッララッララ~ン♬」

 いつの間にか、怖がっていたクマさんもリスさんのお歌に合わせて歌っています。


 どうやらリスさんの作戦は大成功。

 怖がっていたクマさんも、もうすっかり明るい笑顔で、リスさんと一緒に楽しいお歌を歌っています。


 ♪ オンボロ橋を渡ってく

   まずはリスさん リスさん

  「はーい!」

   穴に落っこちないように 小さな体でぴょーんぴょん

   大きくジャンプ ゲームみたいで楽しいね


 ♪ オンボロ橋を渡ってく

   次はクマさん クマさん

  「はーい!」

   橋が落っこちないように 大きな体は慎重に

   そーっとジャンプ 忍者みたいで楽しいね


 二匹が歌っているので、楽しくなって、キツネさんとヘビさんも歌い始めます。


 ♪ オンボロ橋を渡ってく

   次はヘビさん ヘビさん

  「はーい!」

   細くなった橋の端を 長い体でにょろにょろと

   尻尾がジャンプ トカゲみたいで楽しいね


 ♪ オンボロ橋を渡ってく

   最後はキツネさん キツネさ~ん

  「はぁ~い!」

   ふさふさの尻尾が危ない! ゆっくり渡れば大丈夫!

   こっそりジャンプ きっと橋だって気付かない


 もうすぐ渡り終えるというところで、橋を渡った向こう側に、暴れん坊のアライグマさんがいるのが見えました。

「何よ。どうしてそんなところに立っているの。」

 森のみんなが仲良しですが、あまりリスさんとアライグマさんは仲良しじゃありませんでした。

 先頭を歩いていたのもあって、最初にリスさんは言いました。

「どうした。どこに立ってようとおれの勝手だろ。それとも、おれがここにいちゃいけないっていうのか?」

 お歌が止まってしまったせいか、アライグマさんがそこにいるからなのか、またクマさんが怖がり始めてしまっていました。


 逃げ出そうとしても、後ろには今まで渡ってきた橋があります。

 走り出したいくらい怖いのに、走り出すのも怖いのです。

「うう、ウサギさん、怖いよぉ。」

「ちょっとクマさん、ウサギさんは今日は来ていないでしょう? ……って、ウサギさんなんていましたかしら。」

 怯えて口走るクマさんに、キツネさんは冷静なツッコミ。

 怖がるばかりのクマさんの耳にはそれも入っていないようです。


 もう少しでオンボロ橋を渡り切れるのに、アライグマさんがいるものだから、四匹は動けません。

 風に揺れて、今すぐにでもオンボロ橋は落ちてしまいそうです。

「今からどこへ行くつもりなんだぁ? ちなみにおれは、これからドングリ池に行くつもりなんだ。」

「どうしてよ。」

「どうしてって、反対に、どうしておれがドングリ池へ行っちゃいけないんだ。」

「今からあたしたちがドングリ池へ行くの。それを知っていて、あたしたちが行けないように、乱暴を働いてドングリ池を独り占めしようっていうんでしょ。許さないから。」

「知らなかった。おれがおまえらがどこへ行くかなんて、知ってるわけないだろ。」

「何よ!」

 アライグマさんとリスさんが言い合いになってしまいそうになっていたところで、キツネさんは言いました。


「一緒に行きましょうよ。ご一緒したいとお願いしましたときに、誘ってくださったではありませんの。アライグマさんのこともお誘いして差し上げたらいかがですの?」

 一気に二人の言い合いを鎮めるキツネさんの言葉でした。

「そんなのいや! だってね、もしドングリ池まで連れ立って行ったとしても、着いたら一人でお願いをしちゃうのよきっと。それで、あたしたちのことを乱暴で追い返すの。」

 リスさんの言葉を怒ったのは、アライグマさんじゃなくてキツネさんでした。


 気の強いリスさんでも言い返せないくらい、キツネさんは今は強く言うのです。

「そんな言い方はいけませんわ。アライグマさんだって乱暴ばかりするとは限らないではありませんの。だのに、どうしてそう意地悪を仰ってますのかしら? 何もしていないアライグマさんを決め付けるのでは、ひどいのはリスさんの方になってしまいますわよ。」

 そこまでキツネさんに言われてしまっては、リスさんも反省です。

「ごめんなさい。アライグマさんも一緒に行きましょ。」

「おう。そうしよう。」

 四匹は五匹になりました。



 歩いていると、五匹は根っこ広場に辿り着きました。

「なんだか不気味なところね。」

 強気なリスさんが今回ばかりは怖がっているようです。

「不気味なところではあるが、こんなところが怖いのか? へへ、可愛いところがあんじゃねぇか。」

 揶揄うアライグマさんに、リスさんはにっこりと笑います。

「ねえアライグマさん、ここがどんなところだか知ってる?」

「さあ、知らないな。適当な伝説でも聞かせて、おれを怖がらせようってんなら、無駄だぜ。」

 知らないと発言したが、アライグマさんが根っこに捕まらなかったことをリスさんは確認します。


 どうしてリスさんがこんなことを言うのだか、他のみんなにはわかりません。

「ちなみにアライグマさん、ほんとにあたしたちに協力してくれる気があるの? どうなのよ。やっぱり、最終的には乱暴をする気なんじゃないの。」

 問い掛けの意味がわからないアライグマさんは答えてしまいます。

「もちろんだ。おれはおまえらと仲良くなりたいと思っているくらいなんだぜ。」

 アライグマさんの言葉と同時に、根っこがにょきにょきと伸びてきます。


 リスさんは笑いました。

「嘘だったのね。そうだと思った。あのね、ここで嘘を吐くと、根っこがその嘘吐きを捕まえてしまうの。アライグマさんみたいな乱暴で嘘吐きな人に絡まれたときには何よりの場所ね!」

 罠に嵌められたのだとアライグマさんは知りました。

 罠に嵌めたのだと、リスさんがわざとそうしたのだとキツネさんは気付きました。

「どうしてそんな意地悪をなさいますの。そういえば、ドングリ池へ行けば、願いが叶うようなことを言っていましたわよね。ちゃんと、責任をもって、アライグマさんを。」

「あたし、そういうのじゃないから。」

 キツネさんの言葉にもリスさんは吐き捨てました。


「ふざけんなよ! 何しやがる! あぁ、放せったら!」

「ひぃっ。」

 アライグマさんの叫びを後ろに聞いて、クマさんは大きく怯えていました。

 根っこ広場では怯えたふりをしていただけなのか、リスさんはもう怯えなど欠片もありません。

「たぶん、もうすぐね。こんなに離れてるんだったら、ちゃんとお弁当を持ってきたらよかった。」

「それ! ほんとそれ! 僕もうお腹がぺこぺこだよ。」

 元気がないと思ったら、ヘビさんはお腹が空いていたようです。


 もうお日様は少しだけ傾き始めています。

「「「着いたー!!」」」

 ドングリ池に到着して、みんなは叫んで倒れ込みます。

 涼しくて、爽やかで、空気が美味しくて、それだけで願いなんてどうでもよくなるくらい、癒される場所でした。

 風に当たって、みんなとても幸せそうです。

「それじゃ、お願いしよう。」

 クマさんがそう言うのですが、なぜだかリスさんとヘビさんはその場にはいなくなってしまっています。

 そして、どんなに探してもドングリは落ちていません。


 探してもドングリは落ちていませんし、リスさんもヘビさんもいません。

「うぅん、二匹とも、どこ行っちゃったのぉ。キツネさん、見なかった?」

「さあ、生憎いつからいないのかも気付かなかったくらいですわ。ドングリを持ってきていますから、お願いを致しましょう。彼らとて、ドングリを探しているのだと思いますわ。」

 ドングリ池に行くと聞いたので、ドングリをちゃんと持ってきていたキツネさんは、ぽーんとドングリを投げ入れます。


(アライグマさんをお救いくださいませ)



 コマドリさんが歌っているようです。

 とってもきれいな歌声。

 森の動物たちにとって、夜が来たことを教えてくれるのは、このコマドリさんたちのきれいな声なのでした。

 いつものように、森のみんなが眠りに就くみたいですよ。



「にしても、ドングリは美味しいわね。って、あ! ドングリを投げ入れなきゃいけなかったのに、つい食べちゃったぁっ!!」

 コマドリさんの歌に重なって、リスさんの叫び声が響きました。



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