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レモネードだよ

 「こう暑いと何にもする気が起きねぇな」

 ルガーとリモは仮設レストラン『小さな世界』にいた。

 『小さな世界』の建屋は崩壊したため、屋外に置かれたテーブルとイスに麻の天幕の張って営業していた。その一角にルガーとリモは陣取っていた。

 (ホントに暑くなったね)

 リモは縁にレモンが添えられたグラスを口元に運ぶ。グラスはカランと小気味の良い音を立てた。

 「おっ! 何だそれ?」

 (レモネードだよ)

 「そうじゃねぇ。魔法で凍らせてるだろ。オレのも凍らせてくれ」

 ルガーは陶製のジョッキを差し出した。

 (アグア・ソルベッテ)

 リモが面倒そうに呪文を詠唱する。一瞬でジョッキは白い霜を纏った。

 ルガーは「冷てぇ」と嬉しそうに言ったが、すぐに顔色が変わった。

 「飲めねぇ。全部凍らせてどうする」ルガーはジョッキを逆さに振りながら言った。

 (君が凍らせてくれって頼んだろ)

 リモが笑った。

 ルガーの隣に座っていた中年夫婦の夫がリモの笑顔に見とれた。妻が怒って夫の脇腹に肘鉄を食らわす。

 ルガーの正面に座っていた二人組の若い男達もリモにくぎづけになった。小声で「リモさんだ」「オイ、キレイだな」と囁きあっている。

 ルガーは不思議と安心した。リモの笑顔が美しいと思うのは自分だけじゃなさそうだ。

 「まぁいいや」

 ルガーはジョッキを逆さにしてテーブルに叩きつけた。すると凍ったエールの円柱がすっぽりと抜けた。ルガーはそれを手に取ってリガリと食べ始めた。

 (わ。ノール人みたいだね)

 「ノール人は氷を食うのか?」

 (屋外に置いて凍らせたブランデーに火を付けて食べる料理があるんだよ)

 「ははは、何がしてぇんだ。それ」

 ルガーはエールの円柱をジョッキに戻した。

 「パーシバルが死んだらしいな」

 リモの顔色が変わった。

 (うん、今朝鉱山内の牢獄で自殺した)

 「現場は見たか?」

 (見たよ)

 「どうだ?」

 リモはすぐに応えず黙った。

 ルガーの正面の二人組の若者はまだリモの話をしていた。「……キレイだけどデカくねぇか?」

 (パーシバルは牢の中で小さな壺に頭を突っ込んで死んでた……溺死だよ)

 「小便用のか?」

 (……そうだよ)

 「どういうことだ? 自殺するようなタマじゃねぇ」

 (ベルリーネの仕業だよ)

 「ベルリーネ!? パーシバルを自殺させたってのか? そいつは無理があるだろ。 ベルリーネはいくさの最中にハゲ町長に化けて逃げちまってた。どうやって外から牢の中のパーシバルを殺すんだ?」

 (例によって幻覚魔法だよ。牢に仕込んでおいたんだ。誰かが牢に入ったら発動するようにね)

 「でパーシバルは幻覚を見せられて死んだと。 だが何のためにそんな仕掛けを? 仕掛けた時点ではこの後、誰が牢に入るかは分からないだろ?」

 (ベルリーネは敗戦を予感していたのかもしれない。そうなればあの牢はマレクで一番堅牢だから、パーシバルかそれに次ぐ地位の人間が捕虜として入れられる事が十分考えられる)

 「随分奴を買ってるな。大方気まぐれで仕掛けたんだじゃねぇのか」

 (でも、これでパーシバルの身柄を利用してエルフガルドと交渉する事ができなくなったのは事実だよ)

 「交渉? 和平交渉のことか? どの道無理だったろう。侵略する気マンマンだからな。これからどーすんだ?」

 (丁度、御前会議が午後からある。今後の事を話し合うんだ。君も来てくれ)

 「オレも? 何で?」

 (きっと僕達二人に陛下から命令が下ると思うんだ。)

 「どんな?」

 リモは答えずただ微笑んで席を立った。

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