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紫の瞳の

 リモは空中庭園にいた。

 (陛下! 大丈夫ですか?)

 「少し……いや……だいぶ痛てぇよ。ざまぁねぇ」

 ザイログの左肩に木片が貫通している。

 貫通した木片の先端から鮮血が滴り落ちている。

 「リモちゃん……エルフガルドの船は? 何隻……残った?」

 (六隻程度だと思われます)

 「意外と多いね……あとは旦那頼り」

 ドーーーーーーーーーーーン!

 耳をさんざくような轟音がした。

 背中に雷が落ちたかのようだった。

 鉄製の大砲が吹き飛んで、宙に浮いた。それをリモは目で追う。

 近くに建てられた太い木の柱が砕け、木片が飛び散る。リモの視線はそちらに移る。

 先端の尖った木片が高速で飛んでいく。

 木片は一人の若い騎士の腹に突き刺さる。

 リモは叫んだ

 (全員!! 伏せろ!! まだ来る!!!)

 直後、リモの言った通りとなる。

 ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン!

 ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン!

 ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン!

 ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン! ドーーーーーーーーーーーン!



 エルフガルド艦隊の旗艦「カール号」の上でヘンリクは双眼鏡を覗いていた。

 「師団長! あそこです」

 ヘンリクは双眼鏡をパーシバルに渡す。

 「黒煙だな。砲に命中したようだな。よくやったが珍しくもないだろ」

 「よくご覧ください。あれが空中庭園です」

 「何?!」

 パーシバルは暫く口を開けて双眼鏡を凝視していたが。

 「やった! やったぞ! 木が見える! 確かに空中庭園だ! 天幕を張っていたか!」

 「天幕にシネフィルを投影して隠していたようです」

 「王宮だけあって念入りだな。ヘンリク! 砲撃を空中庭園に集中させろ!」

 「ハッ」

 パーシバルは双眼鏡越しに空中庭園を観察した。巨大な天幕を支える木の柱が何本か折れて、天幕が空にたなびいている。そのため空中庭園に植えられた背の高い木々が見えていた。暫くするとパーシバルの見ている前で、ヘンリクが指示した砲撃が着弾して、庭園の木々が次々と見えなくなっていく。白煙が何本も上がる。

 パーシバルの口元が歪み、目元が緩んだ。

 パーシバルは笑っていた。

 「崩落だな」



 リモは天地が不明瞭になっていた。

 自分が落ちているのか、空に登っているのかも分からない。

 目は痛くて開けられない。目を閉じていても視界は真っ白だった。

 口の中には土と小石が入ってくる。

 音も聞こえなくなっていた。

 砲撃のショック状態である事は想像できた。ただこれほど凄いものであると思ってもいなかった。

 自分が生きているのか死んでいるのかも分からない。

 ザイログの安否が気に掛かった。

 (誰か……陛下を……)

 意識が遠くなっていく。これは少しマズイかもと思った。

 その時、リモは誰かに手を掴まれた。

 「しっかりなさい」

 リモは目を開ける。視界は白く飛んでいて役に立たない。だが足が地面に着いていない事に気付いた。宙づりになっているようだった。

 「リモナーダ」

 また声がした。

 なんとか目を凝らすと若い女が見えた。

 美しい金髪。大きな瞳がリモを見つめている。

 (紫の瞳……)

 若い女は額に汗を浮かべ、片手で木の根に掴まり、もう片方の手でリモの手を握っている。

 女は歯を食いしばってリモを引き上げる。

 リモは間近で女の顔を見た。

 (母さん……)リモは泣きながら言った。

 女はリモの頭を優しく撫でると「フレゴラ・フレッサ」を詠唱する。

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