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パーシバルの懐中時計
「降伏の印ではなかったようだ」
パーシバルはそう言って甲板の上に置いた椅子から立ち上がった。
年かさの将校らしき男がパーシバルに近づく。
「どうした? ヘンリク」
ヘンリクと呼ばれた将校はパーシバルに耳打ちする。
「ベルリーネ大佐は如何なさいます?」
「まだ生きてるのか……」
「ハイ。先ほどテレフォノで連絡が。マレクの牢獄にいるそうです。マレクの連中が街を白く塗ったのは観光の為だとか何とか……」
「今さら、どうでも良い情報だ」
「ですがベルリーネは総統のお気に入りですよ」
「奴は危険だ。生かしておいては総統のためにならん。マレク人と命運を共にしてもらう」
「ハッ」
パーシバルは懐中時計を取り出した。
ちょうど針は正午を指したとこだった。
懐中時計の盤面を覆うガラスのカバーに雨のしずくがはねた。
パーシバルは時計を仕舞うとテレフォノを使って艦隊に呼びかけた。
(総員! 間もなく砲撃である! 私の合図で一斉に攻撃せよ)