第9話 珍客の誘い
神剣の一撃のおかげで塞がれていた出口が使える様になり四人がカルナ山を下山していると、上空に何やら人影が見えた。
「あのぅー、すいませーん」
人影が四人に向かって突然話しかけてきた。
敵か?とっさに身構える。
「さっきまでそこに、ドラゴンいませんでしたかー?よいしょっと」
彼はゆっくりと下降し、四人の近くに降り立った。
「邪竜なら今さっきまでいましたよ」
よかった、明らかに敵ではなさそうだ。
とても真面目そうな顔をしている。
「ってことは、あなた方が倒したんですか?あの邪竜を倒せるなんて凄いですね!」
帰らせてくれ〜。
僕らは先ほどまでの死闘で疲れているというのに、彼はしばらくグイグイと話しを続けた。
「あっ、まだ名前を名乗っていませんでしたね。カケルと申します。以後お見知り置きを」
「よろしくカケル!」
五人は互いに自己紹介を交わした。
まだ信用は出来ていないので、スキルについてまでは話さなかった。
「もう少ししたら仲間が来るので、少し待っていてもらえますか?」
「仲間がいるのか?」
「はい!後三人います」
おそらく、自分だけは飛ぶことが出来るので、一人で先に来たのだろう。
もっと早く帰っていればよかった…。
「おいおい、後三人もこんな奴が来るんじゃねーだろーな」
三人は、カイがボソッと呟いたのを聞いて笑うのを必死にこらえていた。
ーーしばらくすると、カケルの仲間らしき人物が二人現れた。
一人は、タンクトップでいかにもパワー系のスキルを持っていそうな格好をした男性。
もう一人は、目が前髪で隠れていて顔がよく見えないが、きゃしゃな体をしているのでおそらく女性だろう。
「あれっ?一人足りなくないか?」
仲間が三人いると聞いていたのに、実際来たのは二人だけしかいない。
あまりのメンツに逃げ出したか…
「本当だ、どうしたんだろう。おーい、マルはどうしましたか?」
「あの丸っこいのなら道草食ってるから置いてきたわよ」
二人来たうちの、女性の方が返事をした。
この場合、来る途中で何かに魅入っているのか、それとも本当に道の草を食べているのか聞いてみたくなる。
「本当に、凄いの来ちゃったよ。マッチョに根暗にデブって、どうしたらそんな豪華なメンツ揃えられるんだよ!」
カイがまたボソッと呟くので、今度こそ笑うのを堪えられず息を殺しながら笑ってしまった。
だが、カケル達には聞こえてなかったので胸を撫で下ろした。
「全く、あいつはしょうがないですねー。ちょっくら行ってきますか!すみませんが、遅れて来てる奴を呼んでくるんで待っていてください。」
「えっ、ちょっと、カケルがどっかに行ったら…」
カケルはノゾムの声を最後まで聞かずに飛んで行ってしまった。
やってくれたよ…
残された六人は、思っていた通りお互いに何も話すことなくしーーんと静まりかえっていた。
カルナ山の山頂に再び静寂が訪れる。
だが、マッチョな男性だけは何故か、山頂をランニングしていた。
どれだけ経ったか正確な時間すら分からなくなっていたが、やっとカケルが帰って来てくれた。
カケルは、三人目の仲間だと思われる男性の服を引っ張って飛んでいたので、まるでサンタクロースの様だ。
「よいしょっと」
カケルは、プレゼントの入った袋を下ろすかの様に、男性を下ろした。
「お待たせしました、これで全員です‼︎」
よーく見れば見るほど凄いメンツだ。
インパクト重視なのか、見た目だけは伝説級のパーティだ
「とりあえず、この丸っこいのがマルオ通称マルです。それから、隣のマッチョがツトムこちらは通称トムです。ラストがクロナ通称クロです。」
またお互いに自己紹介を交わした。
トムだけは一言も喋ることはなかった。
「それで、ここからが本題なんですけど。邪竜を倒したあなた方の力を見込んで、お願いがあります」
改まって何だというのだ。
僕らも、君達の素晴らしい個性に関しては十分見込んでいるつもりなのだが。
「一緒に行って欲しい所があるんです‼︎」
また、このパターンか…
「僕達は今のところ特にすることないから、とりあえず話しを聞かせてくれないか」
「はい、実はですね。あるダンジョンにお宝があるという情報を手に入れまして。そのお宝がどうしても欲しいのです‼︎けれども、そのお宝を手に入れるためにはそれなりの力が無いとたどり着けないらしいのです」
お宝が欲しいがカケル達だけでは、力不足だ。
だが、この世界にはギルドも無いし知り合いも居ない。
そこで、ドンチャン騒ぎをしていた僕たちを見つけ、力を貸して欲しいと。
つまりそういう事だろう。
「それで僕達に協力して欲しいと」
「はい‼︎」
四人はしばらく協力するかどうかを話し合った。
だが、話し合っても特に誰もする事がきまっていない無いので、話し合いはすぐに終わった。
「いいよ、協力してあげるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!では、今日はお疲れだと思うので、明日近くの町の入り口に集合しましょう」
ーー八人は休息を取るため町に向かって下山した。