第7話 邪竜と神剣
結局ユリはノユラから聞き出す事を諦め、四人はカルナ山に向かった。
カルナ山は草木が一本も生えておらず、岩肌がゴツゴツとしており普通に歩くのもままならかった。
そのうえ歩いていると、ときおり空から雷のような轟音が鳴り響いた。
「のわぁーー‼︎なんだよ!雷か⁈」
とっさにカイが腕にしがみついてきた。
「お前は乙女か‼︎」
「いてっ!」
人の腕にしがみつく馬鹿野郎にチョップをお見舞いしてやった。
「なんだよいきなり!」
「なんだよはこっちのセリフだ‼︎俺に男とくっ付く趣味はねぇーーー‼︎」
「俺だって、くっ付きたくてくっ付いてる訳じゃねーよ‼︎だからといって、女にくっ付く訳にはいかねーだろーが‼︎」
まぁ、確かにそうだ。
それはそれで怒る。
「とりあえず離れろ!」
「ちぇっ、冷てー奴だよお前は!」
拗ねてそこらへんの石を蹴り飛ばした。
山頂に着き、辺りを見渡したが何もおらず物音ひとつ聞こえてはこなかった。
ただ、だだっ広い空間があるだけで、周りを岩で囲まれており、ここへ続く道は一本しかない。
しかし、何故か落ち着かず、妙な胸騒ぎが止まらない。
「なぁ、敵は何処にいるんだ?何もいないじゃないか」
「静かにしなさい。来るわ‼︎」
すると、来る途中に何度か聞こえたあの音が上空で響き渡る。
グオォォーーー‼︎
とても大きなその音が、何かの唸り声だという事に気付くのに時間はいらなかった。
そして、空から黒くて翼を生やしたのがコッチに向かってどんどん近くなってくるのが分かる。
だが、『ソレ』が何かわかった時には、もうすでに四人の真上に居た。
「こいつが邪竜バルボロギアよ‼︎」
現実の世界でも竜のイラストぐらいなら、
何度か見た事はあった。
けれど今回に限っては、最近のカラフルに描かれているものより、昔の本の挿絵とかによく出てくる白黒で描かれているイラストの方がそっくりと言えるほど無彩色。
色味が有るとしたらおそらく蒼く澄んだ眼の色だけだろう。
邪竜は背中に生えた大きな翼を羽ばたかせ、僕らを品定めするかのようにじっと睨みつけている。
四人は慌てて臨戦態勢に入った。
すると、邪竜は四人をハッキリと敵と認識したのか、鋭く禍々しい口を大きく開き、声だけで吹き飛ばそうとするかのように大きな怒号を四人に向かって放った。
グヴォォゥゥァァーーー‼︎
いきなりの怒号は四人の耳をしばらく使い物になら無くさせるほど頭の中をガンガンと響き渡らせた。
遅れて耳をおさえるのが精一杯だった。
だが、邪竜は追い打ちをかけるように、大きな翼を思いっきり羽ばたかせる。
四人は、爆風に耐える事が出来ずに足が地面から離れてしまい、後方の壁に向かってそれぞれ吹き飛ばされていった。
「「ぐはっ‼︎」」
壁にぶつかりやっとの事で立ち上がったが、もうすでに戦意を喪失していた。
さっきの爆風で帰路は絶たれ、もう逃げ出す事も叶わない。
しかし、この絶対絶望的な状況に置かれてもなお立ち向える者がいた。
小さな体を奮い立たせ、彼女は立ち上がったのだ。
ノユラは、何処からか爆弾を取り出し邪竜に向かっていくつか投げつけた。
爆弾は命中したが、ほとんどダメージは与えられておらず、邪竜は不気味な笑みで余裕をかましていた。
「あんた達も、いつまでもしょぼくれてないで、さっさと攻撃しなさいよ‼︎」
ノユラの声は、くしくも先ほどの怒号でやられた三人の耳には届く事は無かった。
何より、三人は耳が聞こえなくなったのと、目の前にいる自分よりも何倍もでかい体をした敵への恐れで、震えが止まらなくなっていた。
だがそれでも、邪竜はお構い無しに三人の方に向かっていく。
すると、どこからかチャリンチャリンと音がして、邪竜の視線はそっちの方に移った。
「さぁ、こっちに来なさい‼︎ですの」
ノユラは小さな体でブルブルと震えながらも、三人に攻撃が行かないように必死にコインをばら撒き、邪竜の視線を自分に向けようとした。
ーービュン‼︎
ノユラの倍くらいある邪竜の尻尾が、ノユラの体を宙に叩き上げた。
高く上がった体は、そのまま地面に叩きつけられ起き上がる事が出来ない。
そんな事は御構い無しに、邪竜は大きな口を開きノユラに向かって黒い炎を放った。
その時、三人はやっと我に返り大声で叫んだ。
「召喚‼︎」
「召喚‼︎」
「創造‼︎」
三人はノユラを黒い炎から守るため、壁をはるようにスキルを放った。
だが、三人のスキルはなすすべなくあっという間に破壊され、四人は散り散りに飛ばされていった。
「「うわぁぁーーー‼︎」」
それぞれ後方の壁に叩きつけられ、カイは頭を打ち気絶してしまった。
それを見たユリは、大量の氷の剣を宙に造り出し、邪竜に向かって一斉に放つ。
だが、邪竜は翼を羽ばたかせ風圧で全て叩き落した。
「そんな…」
ユリは力を使い果たしその場に倒れこんだ。
「ユリ‼︎カイ‼︎ …クソッ!あんな奴、どうすれば倒せるんだ」
ノゾムは考えれば考えるだけ、何も考える事が出来なくなっていく自分に、苛立ちを覚える。
その間も、ノユラが邪竜を引きつけボロボロになるまで戦っている。
ノゾムはただそれを、見ているしか無かった。
「ノゾム‼︎あなたの力を貸しなさいですの‼︎」
「だが、俺の力じゃ何もする事は出来ない‼︎」
ノゾムは泣きそうな声で、ノユラに返す。
何かをしたいが何も出来ない。
「あなたのスキルで一番高い自動販売機を出しなさいですの‼︎私のスキルがあれば買えないものなどないわ‼︎」
ノユラのその言葉はノゾムに希望を与えた。
そして、ノゾムは大きな声で叫んだ。
「召喚ーーー‼︎」
空から、いかにも高そうな装飾をした、光り輝く自動販売機が降りてきた。
ノユラはそれに近づき、
「ありましたわ‼︎これですの‼︎今からお金を入れていきますから、時間を稼ぎなさいですの‼︎」
「やれるだけやってみる!」
さっきまで固まっていた自分を奮い立たせ、今出来ることを必死に頑張る。
ノゾムは邪竜の周りを走り回りながら、囲むように召喚し続けた。
だが、そんな小さなものは邪竜にとっては邪魔にすらならなかった。
そこら辺のボールを蹴飛ばすかのように平然と縦横無尽に動き回っている。
「クッ‼︎どうすれば」
ノゾムは悩み考えた。今自分が出来ることを必死に捻り出した。
「そうか‼︎召喚‼︎」
空から邪竜と張り合えるぐらい大きな自動販売機が降ってきて、邪竜に向かってのしかかる。
「ノゾム!出来ましたの‼︎受け取りなさい‼︎」
何とか時間を稼ぐ事に成功したみたいだ。
安堵と共に、突然任された自分への役割に慌てふためく。
ノユラは思いっきり自動販売機のボタンを押した。
すると、ノゾムの手に光り輝く剣が現れた。
「それが、神剣 ラストジャッジメントですわ‼︎」
その名にふさわしい。
悪を裁きし輝きが、山頂を丸ごと包み込む。
「一度使ったら壊れてしまうから、気をつけて下さいですの‼︎」
「これが、神剣… 持ってるだけで力がみなぎってくる!すごい…これなら‼︎」
ノゾムは邪竜を睨みつけ、神剣をまっすぐに構える。
すると、神剣を拒むように邪竜は空高く飛翔し、禍々しい口を大きく開いた。