第26話 偽善
「トドメです。さようなら‼︎」
杖を振りかざしユリに向かってカマイタチを放った。
ーードシュ‼︎
「させるかぁぁーー‼︎解放‼︎」
ーーカキンッ‼︎
「何者ですか⁉︎…なっ!なんであなたが…しかも!なんですその姿は‼︎」
そこには、見たこともないほど真っ白でとても眩しい光を放つマントを羽織り、手には人がギリギリ持ち上げられるくらいの大きさがある大剣を構えられていた。
「俺の名はカイ‼︎カイVer.2.0ここに見参‼︎」
「あなたの能力はもっとちっぽけなものだったはず…それがどうして」
杖持ちが明らかに動揺しているのがわかる。
「あんたどうしたのその姿!説明しなさいよ」
ユリもカイの見たことのない姿に驚いていた。
「前に貰った飴あるだろ?」
事の経緯を説明し始めた。
「えぇ、あの宝箱にもらったやつよね」
「その飴を舐めたら…いや、噛んだらこうなった」
「それで?」
ユリはとてもキョトンとした顔でこちらを見続けている。
「おしまい まる」
「ふざけんじゃないわよ‼︎ちゃんと説明しなさい!ほら、あいつだって待ってくれてるし」
そう言って、呆然と立ち尽くしている杖持ちを指差した。
「いやいや!別に待ってあげている訳じゃーありませんよ‼︎」
突然注目され慌てている。
「ほら、待ってくれるって!」
「勘違いしないで下さい!別に待っている訳ではなーーー」
「しょうがねーなー。説明しろって言われてもぶどう味美味しい以外になんて言えばいいか…」
杖持ちが喋っているのを無視して話続けた。
「あー仲間がやられるーどうしよう〜。あっそうだ!飴なめよう!ぺろぺろガリッ‼︎あ〜目の前が真っ暗に〜」
少しふざけながらもその後のことを説明し始めた。
ーーー真っ暗だ。ここはどこだ?俺は確かユリを助けようとして…
『やっと目を覚ましましたか…わらわはそなたの強い願いによって呼び覚まされた。さぁ答えなさい!そなたはわらわにいったい何を願う‼︎』
遠くから声が聞こえてきた。
まるで、この世界に飛ばされた時みたいだ。
だけど、今度のは声が少し違う。
「俺の今の願いは!ただ仲間を救いたい‼︎俺の仲間を守れる力が欲しい。それだけだ‼︎」
声が遠くに消えていく。
俺の声は届いているのだろうか…
『よかろう。ではそなたにはこの力を授けよう』
胸のあたりが熱くなり、その熱が指の先へと伝わっていく。
「これは‼︎」
『その力の名は偽善。偽りの力、偽善』
「偽りの力…」
中二病をこじらせている自分にとってはとても甘美な響きだった。
『その力は己の心の内を解き放つことによって発動する。さぁ、今一度仲間の元に行ってその力存分に振るうがいい』
「ありがとう!」
『さぁ!目を覚ませ力を持ちし者よ‼︎』
「ってな訳。アンダースタン?」
説明をし終えた。
「フムフム。あの大変珍しいロストキャンディーですか。偽りの力…偽善。そうですか、そうですか。では、少し面倒ですがあなたも捕まえないといけなくなりましたね〜」
そう言ってこちらに杖を向けた。
「やれるものならやってみろ!仲間の仇は俺が取る‼︎」
こちらもユリを後ろに庇いながら奴に剣を向ける。
「偽善とは確かにあなたにぴったりじゃないですか!手加減はしませんよ!絶命寸前まで追い込んでやります‼︎くらいなさい‼︎」
杖から放たれたカマイタチを防ぎ、勢いよく前に出る。
「ユリ、少し離れていろ‼︎」
「分かったわ!後は頼んだわよ」
「任せとけ‼︎」
剣を前に構え一点に集中する。
「よそ見は良くないですよ‼︎くらいなさい!くらいなさい‼︎」
何発ものカマイタチをカイに向けて連続で放った。
「偽りの白き光よ…我が心の枷を解き放ち、今一度世界を光で包みこめ‼︎くらえ『ホワイトアウトォォォ』‼︎‼︎」
剣の先が光り、辺りが何も見えなくなるほど真っ白に染まっていく。
「目くらましとは卑怯な!」
あまりの眩しさに目がくらみ目を前を手で覆った。
遠くの方から足音が徐々に近くなってくるのが聞こえる。
「ヒィ‼︎来るな!来るなー!」
どこにいるか分からない敵にカマイタチを乱れ撃つ。
光がおさまり、恐る恐る目を開ける。
「目くらましじゃねー‼︎」
放たれたカマイタチを全て切り裂き、一直線に切り込んでいく。
「そんなバカな!来るな偽善者が‼︎そうだ!あなた方だって私の仲間を殺したじゃないですか!お互い様ですよ!だからやめろ!やめろ‼︎やめろぉー‼︎」
やられまいと必死にカマイタチを放ち続ける。
が、光を纏った剣の前では無意味に等しかった。
ついに、カイの剣によって杖が切り裂かれ、目の前に剣が差し向けられる。
彼は倒れこみ手を前に出して助けを請うた。
だが、その許しを得られることは無かった。
「お互い様?知るかよ……だから偽善なんだろ…」
剣を高く振り上げた。
光に反射して一層眩しい。
「お前には祈る空すらも見せはしない‼︎」
「やめろぉぉぉーーーー‼︎‼︎」
一気に振り下ろされた剣は敵を跡形もなく葬り去った。
ーーカルナ山のへこみからいち早く夜明けが訪れた。
その光が剣に反射して白く輝き、赤い雫が刃先をゆっくりと伝って行く様は、まるで剣に血が通っているかのように見えた。